ヒトは罪を犯すモノだ。
だが、望んで犯す罪と、望まずに偶発的に犯してしまう罪がある。

前者には死を、後者には恩赦の念を持って見逃してきた。
1.助けを求める事はできないと知っていた
新世界の神となると決めて、僕はデスノートを使って、罪人を消している。
そんなキラのことを、世間では極悪な“犯罪者”として見ている。

人殺しは悪だ。
そう考えるから、キラは“犯罪者”であるとされる。
僕もその通りだと思う。
現に僕は、何人もの殺人犯をあの世へ葬ってきた。

では、僕は悪だろうか?

直接手を出しているわけではないが、確実に僕のすることでヒトが死んでいる。
僕の定義した、“望んで罪を犯している”裁かれるべき罪人。

しかしそれは、世の中を再興させるためなのだ。
良い世界を作るためなのだ。

そう思うからこそ、僕はノートに罪人の名前を書くのを止めていない。
今も。
そして、これからも……

僕はずっと、矛盾の上に成り立つ正義のために、ノートに名前を書き続けるのだ。



「どうしました、月くん?」
「ん…?別に、どうもしないけど?」
「そうですか?そのわりにはぼーっとしていましたよ?」
「……僕だって、考え事くらいするさ。」
「それはそうかもしれませんが……」

僕は時々考える時がある。
『どうして僕は、ノートに名前を書き続けるのだろうか?』
そしていつも、すぐに同じ答えが導き出される。
『新世界の神となり、世界を変えるためだ』

隣でいつも通り、イスの上に珍妙な姿勢で座る竜崎を見る。
この男には、僕の矛盾の上に成り立つ正義を、理解できるのだろうか?
あまり感情を映し出さない竜崎の眸が、僕をじっと見つめる。
その目を見返し、無言の問い掛けをしてみる。

当然、返答はこない。
ただ、感情を映し出さないゆえに、まっすぐすぎる眸が、僕を射抜いていた。


「僕がぼーっと、何かを考えている事が、そんなに不思議かい?」
「はい。とても不思議です。」

先程の無言の問い掛けとは違い、すぐに明確な答えが返ってくる。

「どうして?」

そう訊くと、まるでそれを待っていたかのように、竜崎は少しだけ口端をつり上げた。
笑った…のだろう。
眸がいつもと同じなため、判断は付け難い…

どうでもいいことだから、気にしないけど。
そして竜崎の返答を待つ。

「私の知っている月くんは、人前に悩んでいる姿を、決して見せないからです。」
「そう?確かにそれは、他人に弱みを見せているみたいで、好きじゃないけど。
 でもさっき僕は、悩んでたわけじゃなくて、考えていただけだから。
 誰が見ていようと、別に気にしないよ。」
「悩んでいたのではないのですか?」
「違うよ。」

そう云ってやると、竜崎は目尻を下げ、不満そうな顔をした。
僕は何か、奴の気に障ることを云っただろうか?

「どうして怒るの?」
「怒っていませんよ。
 ただ、とても残念だと思っただけです。」
「残念?僕が頭を悩ませて苦しむさまを、竜崎は見たいの?」
「………そうではありませんが。」

だったらその、多少空いた間は何だ。

本当は見てみたいのだろう?
キラだと疑っている相手なのだから、解からなくもない。
かといって、決して見せるつもりもないけれど。

「それなら、何をそんなに残念だと思ったんだい?」
「月くんが云っていたじゃないですか。」
「……何を?」
「“他人に弱みを見せているようで、好きではない”と。」
「それが?」
「私の知っている月くんならば、その通りだと思いました。
 貴方は決して、他人に弱みを見せないヒトです。」
「そう…。でも、僕じゃなくたって、
 誰も他人に弱みを見せたいとは思わないと思うよ。」
「はい。そうでしょうね。私もそうですから。」
「…………」

竜崎は何が云いたいのだろう?
僕はこいつの不満の理由を訊いた筈なのに。
話が微妙に繋がっていない気がする。

だんだんと聞く気が失せ、僕はため息を吐いた。
それでも竜崎は気にすることなく、話を続ける。

「でも月くんは、私の前で、その姿を見せてくれました。」
「だから、悩んでいたわけじゃないと云っているだろう?」
「はい。その通りです。」
「だったら、」
「でも私は、貴方は悩んでいるのだと思ったんですよ。だから嬉しかった。」
「……何故、竜崎が嬉しいんだ?」

「月くんが私のことを、ただの他人ではないと思うから、私に弱みを見せた。
 そう判断したのです。信頼してくれているのだと。」

「…………」
「間違いでしたけどね。」
「そうだね。」
「それがとても、残念だと思いました。」

僕を友人だと宣言したくらいなのだから、竜崎がそう思ってもおかしくはないだろう。
腹の中では、どう思っているかは解からないが。


「――残念に思うことはないよ。」
「何故ですか?」

「僕は君を、信頼しているからさ。」

そう云ってやると、竜崎は一瞬きょとんとした顔をする。
しかしすぐ、嬉しそうに口元を綻ばせた。

「本当ですか…?」
「うん。だから、もし僕が悩んだ時、そのときは君に相談するよ。」
「はい。その時は、喜んでお聞きしますよ。」
「悩んでるのに喜ばれても、困るけど……」
「言葉の綾です。」
「僕も、君が困ったときには何でも相談にのるよ。
 もちろん、捜査でもそれ以外でも。」
「はい。私も月くんには、弱みを見せられます。
 困ったときは、よろしくお願いしますね。」
「ホント?嬉しいな。」

僕は竜崎に親しげな笑みを向けた。
竜崎も同じように笑っている。
傍から見ればそれは、間違いなく友人同士が親睦を深めたようにしか見えないだろう。

でも僕は思う。

僕がお前に相談することは、一生ない。
そして、お前が僕に相談することも。

何故なら僕たちは、本当はお互いのことを信頼していないから。

キラである僕が、Lと名乗るお前に、助けを請うことは決してないのだ。
Lであるお前が、キラだと疑う僕に、助けを請うことがないように。
決してあり得ない。

矛盾している、しかしそれゆえにお互いを理解できる2人。
それが、僕たちの関係。

矛盾の上に成り立つ正義と、矛盾の上に成り立つ友情。


「世の中、矛盾だらけだな……」

隣にいる竜崎に、聞こえないように呟く。
たとえ聞かれても、いくらでも言い訳はできるが。

「まだ考え事ですか?またぼーっとしていましたが…」
「いいや。ただちょっと、お腹空いたな、って思っただけ。」
「そうですね。時間的にそろそろ食事刻ですし。
 ではご一緒に、お食事にしましょう。」
「嫌だよ。だって竜崎、甘いモノしか食べないじゃないか。
 見ているだけで、こっちは気分が悪い。」
「……酷いです、月くん。」
「僕は正論を述べたまでさ。」
「それでも酷いです。」


矛盾していても、僕はそれが嫌いではない。
快いとさえ思う。

そう思うからこそ僕は、こいつが死ぬか諦めるかするまで、この関係を続けるだろう。
今も。
そして、これからも……

ノートに名前を書き続けるのと、同じように。
Lは月がぼーっとしてると、気になって仕方ないのです。
『も、もしかして、私のことを考えてくれているのだろうか…(ドキドキ)』

みたいな感じに。

...20050402
×おしまい