ライトはおかしくなっちまった。
久々に会ったアイツは、相変わらず自分本位な、頭がいい生き方をしていた。
それでも、前のライトとはやっぱり違う。
確実に変わったと思う。
俺はその変化に、ミサとライトが一緒に暮らすようになってから気付いた。
5.朽ち果てた鎖が今も束縛する
死神の俺は、こっち(人間界)に来てから眠る習慣を覚えた。
そのせいで眠りは浅い。
だからそれに気付いた。
(またか…)
今日もまた夜中に起き出したライトに、気付かれないように寝たフリを続けた。
頃合を見計らって、ライトの後を追い起きるのも、これで何度目になるだろうか。
初めはトイレか何かかと思った。
しかし、ライトが向かう場所は違った。
捜査本部。
普通なら広いだろう部屋に、ごちゃごちゃと機械が入ってるおかげで、とても狭く感じる。
ライトが“L”として活動している拠点だ。
その部屋でライトは、何をするわけでもなく、ただ立ち尽くして何も映し出していないモニターの方を見つめている。
ただそれだけ。
数時間そうやって立ち尽くしてから、また何も云わずに、ミサと一緒に使っている寝室へと戻っていく。
そして次の日には、何もなかったようにまた、L、またはキラとして活動を続けるのだ。
『なあ。』
「なによ~、リュ―ク?今セリフ覚えるのに忙しいんだけどー?」
『じゃあいい。』
「…気になるじゃない。云いなさいよ。」
ドラマのロケとかいうやつの休憩中、俺はミサにライトの奇行の原因を訊く事にした。
コイツに訊いても答えは出ないとは思う。
しかし、同じ人間であるわけだし、死神の俺より、何か解かる可能性もあるかもしれないと思った。
とはいえ、ミサにこんなことを云っては、告げ口にならないだろうか?
ライトに叱られて、リンゴ抜きになるのはツライ。
『えーっとな、夜中に急に起き出して、どっかふらふら行っちゃうのって何かの病気か?』
「はあ?何それ?」
『知りたいだけだ。どっか悪いのか?人間特有の病気か何かか?』
「そうね…。一概に病気とは云えないけど、本人が無意識なら、夢遊病って可能性もあるわね。」
『“むゆうびょう”?つまりは、病気か?』
「そうよ。すっごいストレス感じたり、心が弱ったりするとなる、心の病気。
自然に治る場合もあるけど、精神科医とか心理学士?みたいなヒトに診せるのが一番ね。」
『へえ~。』
急に何で?とミサはしつこく訊いてきたが、監督とかいう奴に呼ばれると、そそくさと部屋を出て行った。
本当は所有者に憑いていなければならないのだが、
ノートも持っていないし、何より退屈だという理由で、特に問題ないだろうと判断した俺は、その場に残った。
心の病気。
キラとしての活動、加えてLとしての活動をしているのだ、かなりのストレスはあるだろう。
しかし、ライトが心の病気になるほどストレスを溜め込むとは思えなかった。
だって、あのライトだぞ?
それとも、俺が憑いていなかった間に、何かあったのか?
また今日も、ライトは夜中に起き出して捜査本部の部屋で、1人呆然と立ち尽くしている。
時々、手を伸ばそうとしては引っ込める。
足を踏み出そうとして、立ち止まる。
『ライト?』
「!」
声を掛けてみた。
びくりと肩を揺らし、ゆっくりと俺を振り返った。
「リュ―ク。居たのか?」
『ああ。――何してるんだ?』
「……何しに来てるんだと思う?…アイツ。」
アイツ?
「あそこで、横を向いてずっと笑ってるんだ。声を掛けても何も答えないのに。」
『あそこ?何処に誰がいるって云うんだ?何の話をしてるんだ、ライト?』
「ほら、死神のリュ―クになら見えるだろう?」
『だから、何が見えるって云うんだ?』
「竜崎、だよ。」
“竜崎”?
Lのことか?
ライトはそいつが見えるって云うのか?
電気も点けない暗い部屋で、ライトの白い指が、ひとつのイスを指差した。
しかし、俺にはただイスがあるだけにしか見えない。
「あのイスは、前の捜査本部から持ってきたものなんだ。
いつもアイツは、ああやって座ってた。
記憶を失っていた僕は、懸命に捜査をしているっていうのに、横で甘いモノばっか食べて……ああ、そうか。」
『? どうした?』
「だから、か。だからアイツは、横を向いて…」
急に自嘲するような笑みを浮かべるライト。
どこか淋しそうな、渇いた笑い声。
無理に笑おうとしているのが解かった。
死神の俺でも、イスの上にいるという“L”の姿なんて見えていない。
これはおそらく、ミサにも見えないと思う。
ライトにだけ見える、Lの姿。
これが、心の病気というやつか?
「リュ―ク、解かったよ。」
『何がだ?』
「竜崎が、横を向いている訳がさ。
――隣に居るんだよ、僕が。
手錠で繋がれて、離れる事ができなかった僕が、竜崎の隣に座ってるんだよ、きっと。」
『…………』
「僕はここに居るのに。もう隣には居ないのに…。それでも竜崎は……」
震える声。
泣いているのかと思ったが、泣いてはいなかった。
目を細めて、羨望と憧憬の表情で見つめている。
何かを、Lを…?
Lに見つめられていた、過去の自分を…?
ライトはおかしくなっちまった。
今ここにいるこのライトは、俺の知るライトではない。
それでも、このライトも俺は、嫌いではないと思った。
今はただ、昼間ミサにこのことを教えないでおいてよかったと、ただただほっとしていた。
ライトにだけ見える“竜崎”の正体は、イスが見ている『夢』です。
幽霊とかじゃありません。
ずっと座ってくれていた、主人ともいえる竜崎を、座ってもらえるイスは大好きだったんです。
夢に見るほどに。
素足乗せるような奴を、本当に好けるかどうかは解からないけどさ!
ライトにだけ見えるのは、ライトがイスと同じ思い出を、共有しているからかな…
夏もすっかり過ぎ去った今ごろの、ちょっぴり切ないホラー(のつもり)でした。
...20051005
×おしまい