心臓を氷で刺されたような感覚の直後、視界がぐらりと揺れた。
どうしたのかと、やけにゆっくりと落下する自分を感じていると、何かに肩を力強く掴まれた。
いや、掴まれたのは肩だけではなかった。
私の体を強く捕まえた(抱かれるというより捕まれるという方が合っていた)手の主は、
次の瞬間、鋭い声で私の仮の名前を叫んだ。

その声が、私がずっと想い続けていたヒトのモノだと気付いたとき、
なんだ、私は死ぬのか…と妙にすんなりと、自分の敗北を自覚したのだった。
14. 誰よりも今、君を想うから
私は、今までたくさんの事件を相手取ってきたが、総て確たる証拠を挙げ、総て完璧に解決してきた。
そんな私の、今回の相手は、世界中を震撼とさせるほどの力を持つ殺人鬼だった。
――通称、キラ。

直接手を下さずに、しかし、確実に犯罪者を殺していく殺人犯。
明らかに人間業ではないその所業に、始め世界は半信半疑であった。
しかし、リンド・L・テイラーを使った私の誘いにより、
キラという殺人鬼がいることを証明することに、私は成功した。

たくさんの時間と犠牲者の元、私はとうとう容疑者を絞り込んだ。

その男の名は、夜神月。
私が、最も出会ってはいけない、運命のヒトであった。


彼と出会い、私は色々なことを教えられた。
誰かと一緒にいることの素晴らしさ、張り合う相手がいるという面白さ。
そして、ヒトを愛するという悦び…

相手が容疑者であるということを忘れるくらい、それはとても楽しい日々だった。
そう、もしかすると、それが間違いだったのかもしれない。

――今、こんなにも悦びに満ちた死を味わうことなど、決してあってはならなかったのだから。


最期の力を振り絞り、私は夜神の肩を掴んだ。
やはり、夜神月がキラであった。
私は、間違っていなかった。
歓喜に打ち震えるこの身体は、間違っているけれど、私の推理は間違っていなかったのだ。

もう時間がない私の顔を見て、勝利を確信した笑みを浮かべる夜神の顔が見える。
その顔で彼がキラであるという確信を得たとき、私はどうしようもないくらい時間がないことが悔しかった。
今ここで死に逝き、自分の敗北を知るよりも悔しい。

何故なら私は、彼に対して――キラに対して、ずっと伝えたいことがあったのだ。


キラ…
私はアナタに、とても感謝していたんです。

“キラ”という、特殊な力を知った時、『デスノート』の存在を知った時も、私はとても怖かった。
もし、アナタよりも先に、私がその力を得ていたら…
そう考えたとき、私の中で答えはすぐに出た。

――その時は、私こそが“キラ”となっていただろう、と…

私が“L”という正義でいられたのは、“キラ”――アナタのおかげなのです。
だから、私は絶対にキラを捕まえたかった。
捕まえて、死刑台に送った時、感謝の言葉を述べようと、ずっとアナタのことを思っていたんです。

キラが殺していたのは、総て凶悪な犯罪者。
ある者は死刑を云い渡され、ある者は一生自由のない生活を強いられていた。
そんな彼らに、少しだけ早い死を与えたキラを、私は悪だと云った。
しかしそれは、同時に、死刑判決をするような人間達をも指していたのだ。

――お前達は、決して正義ではない。

いやむしろ、この世には正義など存在しないのだ。
私とて、正義ではなかった。

キラが死んだ時、私は世界中に、そう訴えようと決めていたんです。
それまで“正義”を名乗り、“悪”であるアナタを追い続けようと。

…ただ、私はアナタに敗北してしまいましたけどね。
そこだけが、計算違いでした。

これでは、伝えたかった言葉が伝えられない。
伝えるだけの時間が、もう私には残されていないのだ。
計算違いですよ。
敗北なんかよりも、本当に悔しいです…

それでも私は、貴方に感謝しています。
身体中の感覚が麻痺している中で、唯一感じることができる、肩を掴む彼の熱い手。
その熱さの中で死ねる悦びを、更に感謝したい。

愛しています…
過去形なんかじゃありません。
貴方が生きている限り、私の愛を、貴方へ捧げます。

あの時触れ合った唇も、あの時絡み合った身体も、決して忘れはしません。
あの時に交わした言葉、本当に嬉しかった…

貴方と出会えたことは、やはり、間違いではありませんでした。
私は、アナタに逢いたかった。
貴方は、私の運命のヒト。
出会ってはいけない、出会うべきヒト。


嗚呼…、夜神月――…
お前がキラであったばっかりに、私にはアナタに伝えたいことが、前よりも増えてしまったじゃないですか。
伝えきれないもどかしさが、私の中を駆け巡る。
しかしそれもまた、何だか逆に嬉しくなって、もっと感謝したくなってしまうのだった。

ありがとう、夜神月。
ありがとう、キラ。
ありがとう…、ありがとう……

ずっとずっと、愛しています。
本当に、ありがとう…
貴方は私の、運命のヒ・ト・よv
…ってね。
Lはまあ、ノートを拾ってもキラやらないだろうけど。

...20050805
×おしまい