ちょっと変わったホラー(のつもり)です。
グロい
といえばグロく、そうでないといえばそうでない。
ぶっちゃけ、意味不明な話だと思います。思いっきり趣味に走って書いてしまいました。

おんみょーじとか、それ系のホラーは案外平気!な方、気楽な気持ちでどうぞ。   
  
いや、愛して悪かった。
キラを新世界の神とするならば、僕の生きた軌跡が、時代の節目といえる。

ノートを拾い、キラ(神)が生まれた。
それを紀元とし、裁きを始めた時代、Lに宣戦布告された時代、Lと名乗る男と対峙し、探り合った時代…
そして、ノートを捨て神が眠りについた時代を経て、
今、Lが消え、キラ(神)が新しい秩序を築く時代が始まった。

しかし、何故だろう。

「どうして君は、此処にいるの?」
「約束を果たしに。」

朝起きると、隣に竜崎の顔があった。
見慣れた隈が縁取る、死んだ魚のようなまん丸い目が、僕の顔をじっとりと見つめている。
気味が悪い。
いや、死んだはずの男が隣にいることがではない。
ましてや、冷静といえば聞こえはいいが、ただ無表情なだけの能面のような竜崎の表情を云っているわけでもない。
首だ。
竜崎は首しかなかった。
首から下の身体(パーツ)が、どこにもないのだ。
気味が悪い、で済まされるレベルではない。

普通、目の前にこんな生首があったら、こんなに平静でいられないだろうが、なにぶん起きぬけであり、竜崎が死んだのも昨日のことだ。
目の前に竜崎の顔があっても不思議だと思わなかった。
しかし一瞬で彼が死んだことを思い出し、何かがおかしいと目を凝らしてみれば、これだった。
突拍子が無さ過ぎて、驚きとか恐怖とか、なにか感情的なモノ全てを忘れてしまった。
そして更に、質問したらすかさず答えが返ってくるものだから、ますます冷静になってしまうというものだ。

「君、身体はどうしたの?」
「さあ?夜神さんに訊いてみれば、あるいは解かるかもしれません。」
「どうして喋れるの?」
「とりあえず、月くんに答えたいことを言葉に出そうとすると声が出たので、喋っています。」
「ああ、そう。」

自分の身に起こった不思議を、理由は解からないがそのまま受け入れ、とにかくできることをやっているということらしい。
ある意味、大者だ。
その達観した思考、そら恐ろしい。

「ん?約束ってなに?」

竜崎との会話で、静かな混乱がひと段落済んで、僕はようやく最初の竜崎の言葉を思い出した。
”約束を果たしに”
僕の質問に対し、彼はそう答えた。
僕は、どうして此処にいるのかと訊いた。
それは、『死んだ人間がどうして此処にいるのか?』だったか、『どうして君は首だけで此処にいるのか?』だったか。
よく思い出せない。
記憶が曖昧だ。
だが、どちらにしろ知りたいことだ。
ならば、『どうして死んだ人間のはずの君が、首だけで、此処にいるのか?』と2つを合わせた疑問にすれば万事解決である。

「約束を果たすために、死んでからも君は、首だけで僕の前に現れたの?
 つまりこれは、怨念とか呪いとか、そういった類のものなのかな。」
「怨念ならば、月くんの前でなく、夜神さんたちに貴方がキラだと伝えます。
 呪いならば、そのまま貴方を殺します。」
「じゃあ、約束ってなに?」

また同じ質問に戻った。
死者が敵の前に現れるなんて、恨みやらつらみやら何かだろう。
だから”約束”とは、『キラを死刑台に送る』といったことかと思ったのだが。
違うのか。

「僕は君と、何か約束をしたか?」
「私が死ぬ間際、貴方は云いました。
 『起きなければ、もう、一生キスしてやらない』と。
 それは大変困ると思ったので、どうにか起きたいと思いながら死んだらば、気付いた時、私は此処にいました。」

倒れゆく竜崎の身体を抱きとめ、確かに僕はそれを云った。
毎日のように繰り返された、記憶を失った僕と君との間で繰り広げられた、起床の時の寸劇のように。
今日は捜査をしたくない、と、毎朝僕を抱きしめながら駄々を捏ねた竜崎を、どうにか起動するための唯一の方法だったのだ。

それを、ほんの戯れのつもりで死に際に吐いた。
まさか聞こえているなんて。
まして、本当に(こんなカタチであれ)起き上がってくるなんて。

「莫迦だな。」

恐ろしいほどの莫迦だ。

「はい。しかしどうやら、その莫迦な欲求しか、今の私には湧かないようなのです。
 貴方がキラだと確信ある今でさえ、貴方を捕まえるより、貴方にキスをして欲しいと思っている次第。
 あ、出来れば甘いモノもいただきたいですが。」

首は微動だにしない。
淡々と口だけを動かし、会話を成立させている。

「甘いモノって……、その身体で?」
「……無理でしょうかね?」

僕の言葉に、目だけを動かして自身の状態を確かめる竜崎。

「物は試しと云いますし、やってみましょう。」
「…………」

できれば遠慮したかったが、このままでは埒が明かないのも確かだ。
甘いモノが欲しいなら、さっさと与えて成仏(おそらく幽霊の類ではないかと仮定)してもらわなくては。

「何が食べたい?君が死ぬ間際まで食べていた、スナック菓子が確かまだ、残っているはずだけど…」
「では、とりあえずそれをください。」

”とりあえず”、か。
どうやら他にも要求されるようだ。

寝床から離れ、捜査本部(ベース)へと向かうことにした。
扉まで行くと、後ろでがつんがつんという固い音が聞こえてきた。
振り向くと、首だけの竜崎が、器用に飛び跳ねながら付いてきていた。
僕の後を、生首が飛び跳ねながら付いてくる。
その様子を振り返って、何か云おうと口を開くが、結局何も云わずに僕は竜崎を連れ立って寝室を出た。


「誰もいませんね。」

今は何も映し出していない、無機質な画面の並ぶ広い部屋。
此処がベースだ。
昨日、ここで、竜崎は死んだ。
……今は僕の後ろで、首だけの姿で飛び跳ねているけれど。

「君が死んで、父が戻ってきてから、ワタリの遺体を発見した僕たちは、明日2人を火葬することを決めて、そのまま休んだんだよ。」
「では、今日私とワタリは骨にされるわけですか。」
「その後、身元を調べて連絡して……なんて話、もう死んだ君には興味ないだろうけど。」
「はあ、まあそうですね。何も手伝えませんし。」

捜査はしばらく休止だ。
キラとしては裁きを続けるが、僕は捜査本部の人間。
身近に人死にが出た以上、捜査より優先してすべきことがある。

「君が死んでから、この部屋は何もしていない。君が死んだときのままだ。」

昨日と同じように、パソコンの前に立つ。
竜崎も、昨日と同じイスにがつんがつんと飛び乗った。

「そのお菓子もそのままだ。好きなだけ食べるといい。」
「食べ……たいのですが、なにぶんこの姿なので…」

じっと、僕の顔を見つめてくる。

「…………僕に、食べさせろ、と?」
「出来ればお願いします。」

生首に起こされ、生首に追われ、今度は生首を餌付け、か……

「まあ、別にいいけど。」
「ありがとうございます。」

パッケージに描かれたパンダが、何も知らない笑顔で笑っている。
ひとつ取り出したお菓子でも、同じようにパンダが笑っていた。

「はい。」

あー、と開いた竜崎の口の中に、ぽいっとお菓子の投げ入れる。
がしがしと噛み砕かれたお菓子はしかし、ボロボロとイスの上に零れ落ちた。
納める袋を持たない生首、当然といえば当然である。

「もっと。月くん、もっと食べさせてください。」
「……いいよ、はい。」

もうひとつ摘み上げ、竜崎の口の中に放り込んだ。
がしがしと噛み砕かれ、やはりそのまま零れ落ちるお菓子の残骸を見ながら、僕は掃除が大変だなとだけ思った。

「――これで最後だ。」

放り込んだ最後のひとつも、先に零れ落ちた残骸に混ざっていった。

「月くん、お茶をください。喉が渇きました。」
「お茶?」

コーヒーではシミができると思った。

「紅茶でいい?」
「砂糖は3つでお願いします。」

コーヒーより幾分かマシだろうと思いながら、紅茶を淹れてきた。
飲みにくいだろうと思い、ストローをさしてある。
それを竜崎は、ごくごくと飲み干していった。
当然末路は、先のお菓子と同じだ。

しかしそれで満足したのか、竜崎はぴょんとイスから飛び降りると、僕の足元までやってきた。
やってきてなお、ぴょんぴょんぴょんぴょん飛び跳ねる。
どうやら受け止めろと云いたいらしい。
渋々ながら、飛び跳ねる竜崎を受け止めた。

「何?」
「約束を果たしてください。」

約束……、何のことだったか……

「とぼけてはいけません。『起きなければ、もう、一生キスしてやらない』と、貴方は私に云いました。」
「ああ、云ったね。」
「それは云い換えれば、『起きれば、ずっと、一生キスしてくれる』ということでしょう?」

恐ろしい。
恐ろしいほどの莫迦だ。
救いようのない大莫迦だ。
そんなもののために、こいつは僕の前に、首だけになっても現れたというのか。
ああ、なんて莫迦らしい。
これから新時代の秩序を築いていかなければならないこの僕が、こんな莫迦のために一生を費やさなければならないなんて。

「ありえない。そんな約束、した覚えがない。」
「いいえ、貴方は守らなければなりません。私との約束を、ずっと一生、私にキスをしてくださらなければならない。
 そのために私は、貴方の前にいるのだから。」


好きです、好きです、愛しています。
Lを終えた私は、今、貴方だけのために存在しています。
貴方だけが愛せる存在になりました。
さあ、キスしてください。
ずっと一生離れません。
キスしてください。
愛しています。


繰り返される告白(ことば)は、呪いの呪文だろうか。
生首にキスを強いられ、僕は一生君を愛さなければならないというのか。
僕が愛してしまったばっかりに、君は一生僕から逃げられないというのか。
可哀想に。
なんて悲しい話だろう。
こんな姿になってまで、僕に愛され続けたいなどと。
なんて哀れな話だろう。
世界の切り札とまで云われた男が、そこまで落ちてしまうとは。

悲しい哀しい首がひとつ。
僕の手の中で僕を見つめている。
キスをしてくれと訴えている。
このまま僕が見捨てれば、何の意味もないモノになってしまう首。
このまま僕が見捨てれば、自分では何もできない存在の首。
僕への欲求以外、持てなくなってしまった莫迦な首。

莫迦で、悲しくて、可哀想で、でもだから愛しい、首。

キスをしてあげよう。
一生分のキスを君に。
甘い甘いキスを君に。

でも、一度だけだ。
だって僕は、新時代を統べる者。
過去の遺物に捉われてはならないんだ。

約束は果たせない。


重ねた唇は冷たく、紅茶と砂糖の味がした。
こういう殺伐ほのぼのラブを書くのがスキです。
最初、タイトルをそのままずばり『首』にしようとしてたんですが、重い気がしたので却下。

とてつもなく曖昧でスッキリしないお話で、いや、悪かった。

...20061021
×おしまい