「んっ…、はぁ――…」

くちゅっというイヤラシイ水音が耳にこびり付く。
なぞる様に舌が絡まり、隙間から酸素を求める際に逃げた舌先を、追い求めるように吸い上げられる。
執拗に舌を吸われ、唇を甘噛みされていると、いい加減口元の間隔がマヒしてくる。
角度を変え、更に深いところまで探られ始めた時、とうとう僕は根を上げた。

「ちょ、っと、流河…、っ……んぅ……」

顔を背け、離れられたのは一瞬。
唇を再び塞がれ、呼吸を遮られる。
苦しい。

抗議の意を込めて睨みつけると、隈が縁取ったギョロリとした目が微かに楽しそうに細められる。

(こいつ……)

確信犯だ。
しつこいキスは、愛情表現とやらから嫌がらせに目的がすり替わっている。

もさっとした髪に手を差し込み、かきあげるように撫でてやると、流河の肩が震えるのが密着した身体に伝わってきた。
その震える背中を空いている方の手で宥めるように撫でつける。
僕の行動にますます目を細めながら、いたぶるようにキスを続ける流河。
視線で笑みを返しながら、僕は流河の髪を徐に引っ掴むと、背中には思い切り爪を立ててやった。

「いたたたたっ!痛いです、夜神くん!ったたたた!」

ようやく離れた流河を押し返し距離をとると、僕は大きく息を吸い吐きだした。

「酷いです、夜神くん。」
「しつこいお前が悪い。」

狭い車内ではそれほど距離が取れないが、僕は精いっぱい窓際に身を寄せた。
中毒者の衝動
今日は珍しく流河は大学に来ており、同じ授業を受講した。
何をしに日本に来ているのか、問いただしてやりたいくらい普通に居たものだから、
授業中は近づくことも声をかけることもなく過ごしていた。
その間中お節介な死神が、いちいち流河の様子を知らせてくれる。
親切だが、気が散ってしょうがなかった。

授業が終わり、今日はもう受講科目がないので帰ろうかと荷物をまとめていると、突然死神が押し殺したように笑い出した。
すっかり死神の性格を知り尽くしている僕は、流河が近づいてきたんだな、と思い至る。
案の定、僕が立ち上がるタイミングを見計らったように、奴は声を掛けてきた。

「今日はもうお帰りですか?」
「ん?ああ、流河。居たんだ?」

わざとらしく驚いてみせる。

「…ええ。それより、夜神くんは今日の授業、これが最後ですよね?」
「何で流河が僕の受講希望を知っているんだ?」
「解かっていて訊いていますか?」

なるほど。キラ捜査の一環で、僕の行動は把握済みということか。
別にキラじゃなくても、己の行動を見張られていれば嫌になるだろうから、嫌悪感を隠さず、流河を睨みつける。

「すみません。これが仕事なもので。」

奴は悪びれもせず、ぬけぬけと云った。
周囲には興味深げにこちらの様子を窺っている学生たちがいたので、手で口元を隠し、内緒話をするように小声でだ。
緊張感もないその仕草は、どこか楽しそうでさえある。

「そうなんだ?珍しく今日は登校していたものだから、
 てっきり道楽でキャンパスライフを過ごしているものかと思ったよ。」

今の捜査状況は、第2のキラに僕がキラと装ったメッセージを流し、様子見の状態である。
莫迦な相手なだけに、早々に返事が返ってくる可能性は高い。

「本部に居なくていいのか?」
「ここではその話は……」
「じゃあ、場所を移動しよう。」

僕から誘い出し、教室を出た。
歩いていても、構内では視線を感じた。

「注目されていますね。」
「君が珍しく登校しているからじゃないか?」
「夜神くんが目立つからでしょう。」
「流河ほどじゃないよ。」

そんな軽口を交わしていると、門前に見覚えのある黒い旧式のベントレーリムジンが見えてきた。
流河の迎えの車が待っているのだ。

「よろしければ、ご一緒に本部に行きませんか?」

車が見えた時点で予想していた通り、流河から捜査本部へと誘われる。
僕は非常に残念そうに眉を寄せ、首を横に振り云った。

「悪いけど、今日は妹と約束があるんだ。」

僕が当然一緒に来ると思っていたようで、流河は途端に口をへの字に曲げた。
口元に親指を当て、爪を噛み始める。
流河の不満足そうな顔に優越感を覚えるが、顔に出すような下手は犯さない。
食い下がる様に流河が云い募る。

「もしかしたら、第2のキラから返事が来ているかもしれませんよ?」
「だとしたら、君がここにいるわけがないだろう?」
「…………」

僕の正論に、流河はますます不機嫌そうに黙り込んだ。
偽キラの動向は確かに気になるが、四六時中この男に付き合って頭を悩ませるのも疲れる。
頭上で僕の真意を理解しているだろう死神が、楽しそうに笑った。

「では、お家までお送りしますよ。雲行きもあやしいですし。」
「そうだね。そうしてもらえると助かるよ。――君とももう少し、話を続けたいしね。」
「…光栄です。どうぞ。」

十分楽しんだので、自分に都合の良い条件だけ呑んでやることにした。
つき放しっぱなしだと、後々が面倒くさい。
流河に恭しく車に向けて手を差し出され、車の中へ誘われる。
ドア前に立つ運転手と思しき相手に目礼を送ると、僕は車に乗り込んだ。
その後に流河も続き、ドアが閉められた。

しばらく進むと、雨が降り出した。
車窓に雨粒がぶつかって零れ落ちる様を眺め、流河へと向き直る。

「誘われて良かった。そうじゃなかったら、今頃雨に振られていただろうな。」
「この一大事に、雨のせいで、夜神くんに風邪でも引かれたら困ってしまいます。」
「おいおい、大げさだな。僕がいなくても、君がいれば捜査は進むだろう?」

今のところ、僕が捜査本部でやった作業と云えば、第2のキラが存在すると云う推理と、
そいつに向けたメッセージを作成しただけだ。
基本的な捜査の動向を指示しているのは、目の前にいる流河に他ならない。
それよりも、僕が風邪で寝込んだ時のキラの動向がどうなるのかを知れた方がよっぽど有益ではないだろうか。
そう思い、移動中暇なのもあり鎌を掛けてみることにした。

「それに、僕が寝込んだ方が、君にとっては有益なんじゃないのか?」
「―――…」

黙り込んだ流河の反応から、僕の云いたいことは伝わっているのだろう。
本当は厭味ったらしく笑ってやりたいところだが、夜神総一郎の真面目な優等生の息子たる夜神月は、
キラとして疑われていることを不快に感じているので、不満げな顔をしてみせた。

「夜神くんはやはり誤解をしているようです。」
「誤解?」
「はい。私が貴方を疑っていると云ったことでそんなことを云っているのでしょうが、
 私個人としては貴方が寝込んだりしたら、心配ですしそんなのは嫌です。
 もし本当に私が貴方をキラだと疑っているとしたら、こんな風にのんびり同乗しているのもおかしいでしょう?」
「……君なら相手がキラだろうと、他の犯罪者だろうと平然としてそうだけどね。」
「それは喜んでいいのでしょうか?」
「褒められていると思ったのなら、いいんじゃないか?」

そう云ってやると、流河は入学式の代表挨拶をした時のように、僕を見据えたまま頭を掻いた。
照れたポーズをとっているのだろうが、僕がキラだからか胡散臭い芝居をしているようにしか見えない。

「止めませんか?こんな話。」
「そうは云っても、君とは他に共通の話題もないし。」
「普通に、学生同士の会話をしましょう。私たち、せっかく同級生になれたのですから。
 知り合ったばかりだし、お互いのことをもっと知り合おうではありませんか。」

そんなことを云い始める流河に、戸惑った演技をしつつ、頷いた。
キラという本筋を外した話をしたとしても、結局やることは腹の探り合いに違いない。
お互いの思考を会話から得て、今後の参考にしようという魂胆だろう。
Lの可能性がある流河のプロファイリングができると思えば、僕にとっても有益なので、断る理由はない。

「しかし、普通の会話と云ってもな……」
「夜神くんは、好きな食べ物は何ですか?」

突拍子もない質問をされて、思わず呆ける。
僕のその様子を不思議そうに覗き込みながら、流河はさらに続けた。

「嫌いな食べ物はありますか?」
「えっと、そうだね。食べ物で特に好き嫌いはないかな。極端に過ぎるものは苦手だけど。」
「過ぎるもの?」
「味が濃過ぎるとか、辛過ぎるとか、……甘過ぎる、とかね。」
「なるほど。」
「流河は甘いものが好きなんだろう?」

云ってやると、流河は目を見開いて驚いている。
そんなに驚くようなことを云っただろうか?

「よく、解かりましたね。」
「君からは常に甘い匂いがしているからね。
 それに、この間本部に行った時も、とても甘そうなモノを食べていたじゃないか。」
「そうですか?」

そう云うと流河は、徐に自分の衣服を摘みあげ、鼻を近づけて匂いをかぐ。
何度かその仕草を繰り返し、首を傾げた。

「しますか?甘い匂い。」
「自分じゃ解からないのかもね。」

そう云いながら、流河に顔を近づけ、目を瞑ると思い切り息を吸い込む。

「うん、この匂いは……、今日はチョコレートでも摘んだかな?」
「…………」
「? おい、流河?」
「あ……、はい。ご名答です。」

目を開けると、流河は体を強ばらせて茫然としていた。
声を掛けるとたちまち無表情のいつもの様子に戻ったが、変な奴だ。
顔が間近に近付いたからか、じっと見つめられる。

「何だよ。僕の顔に何か付いてる?」
「……変なことを云うと思うかもしれませんが。」

流河はそう云うと、僕の顔に手を伸ばし、そっと包み込むように触れてきた。
行動の意図が解からず、振り払わずに、されるがままに受け入れる。

「何?」
「夜神くんが目を瞑り顔を近づけてきたので、
 ――キスをされるのかと思い、思わず身構えてしまいました。」
「…………」

とんだ勘違いをするものだ。
呆れて言葉が出ない。
だが、この状況で黙っているのも気まずいので、徐に溜め息を吐くことで沈黙を解いた。

「男同士でそんな勘違いするなんて、おかしな奴だな。流河は。」
「そうでしょうか?」
「そうだよ。でも、本当にそんな勘違いしたのなら、ちゃんと抵抗した方がいいよ?」

おかしそうに笑って、頬に添えられた方の流河の腕を掴んだ。

「それと、こうやって気易く他者の顔に触れるのもおかしいよ。
 女性にやったら相手の高感度にもよるけど、訴えられるだろうし、男だったら君自身が変な目で見られるよ?」
「私は、おかしいですか?」

掴んだ腕を放すが、流河は再び僕の顔に手を伸ばしてくる。
遠回しに触るなと云ったつもりだったのだが。
本当に何がしたいんだ?
正直に不快感を顔に出し、流河を睨みつけた。

「流河?」

今度は呼びかけても返事がない。
ひょっとして、怒っているのだろうか?
大学では存在を無視し、捜査本部への誘いを断り、面と向かって「おかしい奴」呼ばわりした。
この手はそれに対する嫌がらせかもしれない。

そんなことを考えていると、奴は僕に触れている指に少し力を入れ、顔を近づけてきた。
傾いた体を支えるように、僕を挟み込むように、背もたれに空いた方の手を付く。
近づいたことで奴の前髪が、僕の前髪に触れる。
反射的に流河の肩に手を伸ばし、流河の体を支えるように力を込めた。

「何だよ。近い…」
「どうです?」
「は?どうって、何が?」
「キスされると、思いませんでしたか?」
「…………」

そう云われて、流河がやはり先ほどの仕返しをしているのだと確信する。
こちらとしては、意図していない行動に対する仕返しなので、不愉快極まりない。

「思わないよ。」
「ですが、夜神くんはこのように抵抗しています。”勘違いしたから抵抗する”のでしょう?」

僕が先ほど云った言葉を逆手に取るようなことを云う流河。
いちいち相手にするのも莫迦らしい。

「勘違いじゃなくても、ここまでされれば誰だって抵抗するよ。
 それより、本当に甘いな。吐く息まで甘いぞ。離れてくれ、胸やけしそうだ。」
「……勘違いじゃないとしたら?」
「え?」
「私が本当に、夜神くんにキスをしようとしているとしたら、どうします?」
「!?」

そう云うと流河は、掠めるようなキスをしてきた。
一瞬だが、確実に触れていた。

「ふざけるな!いい加減に、」
「私のキスは、甘いでしょう?」
「!」

挑発するように、ふうと息を吹きかけられる。

「あんなので解かるか!」
「…やれやれ。困りましたね。」
「何がだ!」

優等生夜神月の顔は完全に剥がれているが、そんなことは今はどうでもよかった。
むしろぶん殴ってやりたい衝動を抑えているだけ、褒めてもらいたいくらいだ。
憤りをぶつけるように、力いっぱい押し返す。
しかし、体制が悪いのか一向に流河を引き剥がせない。

「夜神くん。もう少し自覚を持った方がいいですよ。」
「何の話だ?」
「そんな風に誘うと、それ相応のことをされると云ってるんです。」
「”誘う”?」

誰が、誰を?
いやそれより、相応のこととはどういうことだ?
流河の云いたいことが一向に見えてこない。

「日本には”据え膳食わぬは男の恥”という言葉があるそうですね。
 今まさに、私は”据え膳”を目の前に用意されている気分です。」

”据え膳”とはつまり、自分のことを云っているのだろうが、何故今そう思ったのか理解できない。
そのことわざは、本来女性のことを指しているはずだ。
キャンパスメイト、あるいはキラ容疑者と思っている僕相手に、どうしてそう思うのか。

…いや、そうか。
先程、流河に鎌を掛けていたことを思い出した。
そう、これは腹の探り合いだったのだ。
キラは死の前の行動を操れる。それはすでにLに教えている事実。
デスノートでは、行動を操る先は相手の死が必須であり、切り離せない事項だ。
だが、それを知らないLにとっては、”行動を操れる”ことと”死”が結ばれていない可能性がある。
つまり、僕が誰がしかの行動を操り、この嫌がらせを止めようとするか試しているのかもしれない。

(実力行使ってわけか。相変わらず、限度を知らないな…)

そんなテストのために、男相手にキスをする流河の行動力に感心する。
確かに先に挑発したのは僕だ。
誘ったと思われ、こういった形で試されている。

「他に方法はなかったのか?」
「? 方法ですか?」
「こんなことをされても、僕は君に何もしないし、どうとも思わない。」
「…………」
「だから、今すぐ止めてくれないか?」

呆れたように嘆息し、流河の肩をトントンと叩く。
流河の眉間にしわが寄せられ、途端に不満そうな顔をした。

「私の愛情表現は、どうして伝わらないのでしょうかね……」
「愛情表現?」
「私も慣れているわけではないので、一概に正しいこととは思っていませんが。
 夜神くんこそ少し、おかしいんじゃないですか?」
「僕が、おかしい?失礼な。」

お前ほどじゃないよと云ってやるが、聞く気がないのか、流河は首を左右に振り続ける。
本当に失礼な奴だ。

「愛情表現だかなんだか知らないけど、日本ではこの手段は使わない方がいいよ。」
「…何故です?」
「さっきの、他者の顔を触れるのと同じ理由さ。」
「…………」

触れるだけのキスだろうと、一般的に日本では挨拶でするような行為じゃない。
親睦を深めると装って、僕の行動を見ているのかもしれないが、こんな方法をとられるのは正直に嫌気がさす。
こんなことは止めるよう、更にくぎを刺そうと思っていると、流河は更に僕に体重を掛けてきた。

「こうなったら、私も意地です。」
「流河?」
「伝わるまで続けます。」
「何を、――っん!んんっ!!」

再び唇が触れ合う。
いや、触れ合うなんて生易しいものではなく、噛みつくように荒々しく、そして深いものだ。
顎に力をこめられ、口をこじ開けられたかと思うと、舌が口内に入ってきたのだ。
付き放そうと流河の肩を押し返すが、先ほどと同様ビクともしない。
まさか、ここまでするとは予想外だ。
キラとして行動するか試しているかと思ったが、流河はこの行動を”意地”と云っていた。
つまり、僕の予想と流河の本意が異なっていることを意味する。
そうなると、流河は本当に親睦を深めたいだけだったのだろうか?
僕が流河を拒んだことで彼をたき付けてしまい、過剰なスキンシップへと走らせた。
そう思い至るが、いまさらもう遅い。
抵抗しているが、効果はなく、流河を止めることは難しい。
であれば、しばらく身を任せてみるか。



キスを続けることしばらく、我慢を続けたが、とうとう僕は根を上げ、力技で流河を引き剥がした。
車窓に身を寄せたことで、雨によって冷やされた外気がマヒした唇を冷やしてくれる。
それでも、冷たい外気は僕の怒りまでは冷ましてくれそうにない。
恨めしそうにこちらを見つめる流河と目を合わせないようにしながら、袖口で唇を乱暴にぬぐった。

「…それで、伝わりましたか?」
「何が?」

ぶっきらぼうに問い返すが、キスをされる前に流河が云っていたことを思い出す。
愛情表現がどうとか、そんなことを云っていたはずだ。

「さっぱりだな。かといって、続けられても理解できないから、もうするなよ。」
「そう、ですか……」

難しいですねと、何故か残念そうに流河は抱えた膝に顔をうずめた。
どうやら、落ち込んでいるようだ。
嫌がらせのようなキスをされて、気落ちしたいのはこっちの方だ。
しかし、流河を責めるようなことを云う気力もなく、車窓を雨が打つ様をひたすら目で追った。
車内が走行音と雨音で溢れるように、沈黙で満たされる。
このまま黙っていてくれれば楽だなと思った矢先、僕の思いに対抗するかのように、流河がぽつりと呟いた。

「――夜神くんは、チョコレートのような人です。」

次いで、沈黙を壊すように、カサカサパリパリと何か紙を擦るような音がする。
バリッという、ひと際大きな音が響き渡ると、不意に鼻孔に甘ったるい匂いが漂ってきた。
匂いに釣られるように流河に視線を移すと、彼は30センチ大の薄い長方形の箱を開け、何かを摘みあげて食べていた。
何かは、確認しなくとも解かっていた。
チョコレートだ。
車内は忽ちにチョコレートの独特な匂いに満たされていた。

「どういう意味だ?」

事あるごとに、流河が甘いものを食べている姿は目撃していたので、今さら突然チョコの1つや2つ摘みだしても驚きはしない。
ただ、雨のせいで窓を開けられないこの状況で、甘ったるい匂いを充満させる神経を疑いはしたが。

「チョコレートは、あらゆる生物にとって毒物だってご存知でしたか?」
「…まあ、聞いたことはあるけど。」
「人間だけなんです。こんな毒物を食らって、平然としていられるおかしな生物は。」
「…………」
「人間だけなんです。――危険だと解かっていて、尚も求めてしまう愚か者は。」

そう云って、また1つチョコを摘みあげると、流河はそれを口に放り込んだ。

「つまりは、僕が危険人物だって流河は云いたいの?」
「否定はしません。少なくとも、私にとっては未だかつてないほどの脅威です。」

僕がキラだから?そう疑っているから、脅威だと感じている、と?

「……やっぱり、君とはこういう話になってしまうんだね。」

こういった話は止めようって、云いだしたのはそっちだろうに。
大げさに嘆息する。

「――やっぱり、夜神くんには私の伝えたいことは伝わらないみたいですね。」
「何?」
「今はとりあえずいいです。もう少し落ち着いたらじっくりお話しましょう。」

そういうと流河は僕から視線を外し、チョコを食べ続けた。
真意の見えない会話に辟易とし、再び車窓の雨を眺め始める。
そして、ようやくそれに気付いた。

「おい、此処は……」
「着いたようですね。」

着いた先は、僕の家ではなく、都内にある某ホテルのロータリー前であった。
先日来たところとは違うが、こんなところに来る理由は1つしかない。

「現在捜査本部の本拠地にしているホテルです。部屋は29階になります。」
「僕の話を聞いていなかったのか?今日は用事があるって云っただろう?」
「妹さんには大変申し訳ありませんが、今は一大事です。キラ捜査を優先してください。」

有無を云わさぬ物言いに、流河の本気を感じた。
嫌がらせや冗談ではなく、本気で僕を本部に引っ張っていく気のようだ。
ロータリーのホテル出入り口前で車が停まる。
流河は自分でドアを開け、さっさと降りると、僕を振り返り名前を呼んだ。

「月くん。どうぞ、こちらへ。」
「…………」

名前で僕を呼ぶのは、捜査本部にいる時に限られる。
切り替えの早い勝手な男に、無性に腹が立った。
竜崎にまんまと乗せられたと知った死神が楽しそうに僕に話しかけてくるのが、更に苛立ちを増幅させた。
しかし、ここで反抗しても意味がない。
無言で車を降りると、竜崎の後について、エレベータホールへと向かった。
ミサから2回目のビデオが届く直前のシチュエーションを想定しています。

月視点なので解かりにくいですが、月はだいぶ鈍感くんです。
流河のストレートなラブアタックに、全く気付いていません(笑)

本当は「夜神くんの唇は毒のようです」とか云わせたかったんですが、繋がらなかったので、チョコレートで我慢。
チョコはメロの代名詞だったけど、第2のキラが死神の目のビデオ送ってきたとき、
竜崎がチョコ食べてたので、いいかなと。

...20160531
×おしまい