「月くんがキラでしょう?」
「僕じゃない、と何度云えば解かるんだ。まったく。」
今では挨拶のように交わされる押し問答に、月はすっかり慣れてしまっていた。
後ろでプカプカ浮かんでいるリュークも、目新しい会話が最近めっきりないので退屈そうに漂っている。
リアリストは崖下を見て口の端上げる
「……月くん。」
「何だい、竜崎?」
「実は、ずっと黙っていたのですが…
私、もうひとりだけ、キラ容疑者として考えている人物がいるんです。」
「何だって?」
突然告げられたその言葉に、本当はキラ本人である月は、わずかに目を見開いた。
「本当なのか?」
「はい。」
「そ、それは、どういった理由で?」
世界の切り札とも云われる名探偵Lが、容疑者として考えているのだ。
何か、決定的な証拠か、理由があるに違いない。
「彼を容疑者とする理由は、いくつかあります。
まず第一に、世界的に犯行が可能であるという行動範囲です。
彼の元々の仕事柄、誰にも見つからずに世界中をまわることなど容易でしょう。」
「へえ。それが本当なら、すごいヒトだな。」
行動範囲も何も、ネットや新聞、テレビなどから情報を得て、ノートに名前を書くだけで事は足りる。
しかし、ノートの存在なくキラの犯行を行うとしたら、それこそ世界中を駆けずり回ることになるだろう。
デスノートの効力が写真でも効いてくれてよかったと、月は今更ながら思った。
「第二に、犯罪者のみ殺すという、犯行基準です。
おそらく、キラなりの正義なのでしょう。正義を愛し、悪を嫌う彼らしい。」
「ふーん。」
キラは新世界の神だ。
新世界の神が選んだ、心の優しい人間だけの世界を作る。
竜崎のいう”彼”も同じ理想を持っているとなると、今後、何かの役に立つかもしれない。
ますます興味を惹かれ、月は心もち身を乗り出した。
「第三に、キラの一番初めの犯行と思われる例の事件…。
あれのおかげで、キラは日本に居ると判断しましたが、もうひとつの確信も私に抱かせました。」
「もうひとつの確信?」
「はい。あの幼稚園立て篭もり事件。あれは、園児が人質としてとられていました。
実験だったとはいえ、おそらく彼は黙っていられなかったのでしょう。
子どもたちは、彼にとって大切な存在なんです。」
「それが、もうひとつの確信か。」
あれはたまたま目に付いただけだ。
半信半疑のうちの行動だったが、確かに園児達がこれで助けられたらとも思っていた。
子どもは未来を作る担い手である。
大切にしなければならない。
「まあ、そんなところです。
しかし私は、彼がキラだと思いたくないんです。」
「何故だ?」
「私は彼が大好きだからです。」
「……好き、だと?」
それは遠まわしに、自分のことは好きじゃないと云っているのだろうか。
散々あんなことやこんなことをしてきたくせに。
「じゃあ竜崎は、僕が嫌いなんだね。」
「え?ち、違います。私は月くんも大好きです。むしろ愛しています!」
「でもキラだと疑っているんだろう?」
その”彼”は疑いたくないくせに。
「もう二度と僕に触るなよ。」
「そ、そんな…!」
竜崎は、その場の空気が2,3度下がったのを肌で感じた。
突き詰めれば月の嫉妬であるのだが、触るなと云われたことがショックで、竜崎は気付かない。
「それで結局、そいつは何処のどいつなんだ?キラかもしれないんだろう?
そこまで条件が揃っているんだから、父さんたちにも云って、調べる必要があると思うよ。」
「ですが…」
「何だい?何か問題でも?」
月の顔が怖い。
それがキラを追う姿勢を見せる演技なのか、”彼”を庇う竜崎への怒りのためなのか、月自身にも解からない。
月にも解からないことが、竜崎にだって解かるわけがない。
解からないが、とてつもない怒りのオーラだけは感じ取れる。
恐ろしくて月と目が合わせられず、無意味に自分のコーヒーに角砂糖を投入し続けた。
しかし質問に答えなければますますオーラが強くなることが解かっているので、しぶしぶ口を開いた。
「彼は、その彼は……今まで誰も、その姿を見た者がいないんです。」
「姿を見た者が、いない?
ならどうして竜崎は、そんなにそいつの情報を持っているんだ?」
「私だけではなく、月くんも知っているはずです。」
「僕も知っている、だと?」
「彼は世界的に有名な方です。」
竜崎のいう、新たなキラ容疑者。
世界中を飛び回れる行動範囲を持ち、善を愛し悪を嫌う、子ども好きな世界的な有名人。
その姿を見た者はおらず、だが月も知っているというその”彼”とは、一体何者なのだろうか。
「彼は、赤い服を好み、ペットにトナカイを飼っています。」
「トナカイ…」
「たくさんのオモチャやお菓子などを手に入れられることから、財政的に裕福な家なのでしょう。」
「…………」
「不思議なことに、お年寄りでありながら彼は、ずっと昔からその仕事を続けています。
私も毎年彼のお世話になっています。だから彼が大好きで、彼の影響を受けて、私も靴下が好きになりました。
特に白は大好きです。」
「――――」
「進入経路は煙突。不思議なソリに乗り、空を飛びます。
容姿は、白く長いヒゲを生やした、柔和な顔…という噂。」
「――竜崎、まさか…」
「そう、彼の名は…」
――サンタ・クロース…
世界中の優しい子ども達にプレゼントを配る、気のイイ爺さん。
架空の人物である。
「竜崎は彼を…、信じているのか…?」
その存在を。
「はい、信じています。」
キラではないことを。
「竜崎。」
「何ですか?」
「……僕も彼は、キラじゃないと思う。今まで誰にも云わなくてよかったと思うよ。」
「月くん…」
ぱぁーっと、竜崎の表情が嬉しそうに輝いた。
胸に込み上げてくる何かに突き動かされて、月は思わず竜崎の頭を撫でていた。
その”何か”が、愛しさなのか痛わしさなのか、やっぱり月には解からなかった。
だがこの男がキラの最大の敵なのかと思うと、月は無性に虚しかった。
『月~、”サンタ”ってイイ奴なんだな!死神にもプレゼントくれるのか?
俺、リンゴが欲しいぞ!』
後ろに漂う死神にも呆れながら、世の中って案外平和なのかもしれないなぁと、月はしみじみと思った。
メリークリスマス☆
竜崎へのプレゼントは、もちろんワタリの仕業です。
ワタリがプレゼントを靴下に入れる瞬間を見て、
『ワタリ、お前が…キラだったのか!』
とか云ってたら、楽しいなぁと思います。
...20061224
×おしまい