嬉しいのも、苦しいのも、いっぱいいっぱい。
時々隣にいて、いつも遠くにいた。
好きなのは知っている。
俺自身のことだから。
いっそ、忘れてしまえたら幸せになれるだろうに。
でも、忘れていないから幸せで、知っているからこそ苦しいんだ。
『恋』なんて、メルヘンチックな響きに負けるくらい、俺の心は腐ってる。
眼差しの行方を捜して迷子になった
気付かれているのか?
たぶん、普通の奴なら気付いている。
(現に、マットからはからかわれた。)
でもあいつの態度からはそんなこと、微塵も感じさせない。平然としている。
あいつは普通じゃないから、気付いていない可能性の方が高いかもしれない。
頭は良いくせに。
(しかも俺より。若干だけど。)
何度見ても、この阿呆面には腸が煮え繰り返る程の憤りを感じる。
「ヒトの特等席で寝やがって。こんにゃろが。」
天気は曇り。ただ風は温かく、昼寝にはもってこいのコンディションであった。
此処はリネン室。
ワイミーズハウスの寝具一式を格納している部屋だ。
明かり取り用の小窓が天井にあるだけで、出入り口の扉以外側面は壁だけ。
ワイミーズの奥まった所にある此処は、静かにくつろげる、メロのお気に入りの隠れ家の一つである。
使われていないベッドマットが積まれた場所には、ちょうど唯一の窓から光が入る。
今日ものんびり此処で昼寝がてら、読書でもしようとしゃれこんでいたところだった。
だがその場所には、既に先客がいた。
もっとも近づいてはいけない、気に食わない男が。
「とぼけた面しやがって。」
ニア。
白銀の髪、白磁の肌。
呼吸をしている胸が上下していなければ、死人のようにしか見えない、生っちろい子供。
謀らずしも高鳴りだした鼓動に、メロのイライラは頂点へと上りつめる。
身体が熱い。
激しい動悸に頭が痛み、眩暈まで起こしそうだった。
重症である。
「起きろ、クソが!」
怒りにまかせ、握りしめた拳を、力いっぱいニアの頭に振り下ろした。
拳はしかし、ふわりとした弾力に、任せた力のまま戻ってきた。
殴りつけた振動で、ベッドマットの不安定な足場が揺れる。
ごろりと寝返りをうち、うまいこと拳を避けたニアが、揺れが収まるのを見計らってむっくりと起き上がった。
「危ないじゃないですか。落ちたらどうしてくれるんです?」
寝起きとは思えないほど澄んだ目で、俺を見返したニアは、言葉とは裏腹に対して気にした様子もなく服のしわを手のひらで伸ばしだした。
その平然とした態度が、さらにムカつく。
「知るか。いいから、この部屋から出て行け!」
「……一緒に寝ればいいじゃないですか。」
「は……」
「大方メロも、此処に昼寝をしにきたのでしょう?
私も少し寝足りないので、お隣どうぞ。」
何を。何を、云っているのだ?
お前は俺のライバルで、俺達の仲は最悪で、同じL候補で、ワイミーズのトップ2で――
頭の中で、自分とニアに当て嵌まる言葉が、ぐるぐると巡る。
つまり。そう、つまりは…
「何で俺が、お前と慣れ合わなきゃならねーんだよ!」
知っているのか?
俺の気持ちを。
この胸糞悪い、感情を。
だから俺を試しているのか?いやいや、考え過ぎなのか?!
「いいか、俺はお前が…」
「……好き、なんですか?」
「!?」
突然すぎるニアの言葉に、一瞬で顔に熱が集まっていくのを感じた。
動揺してはいけないと解かっていながら、どうしても落ち着くことができない。
「ばっ、馬鹿か?!馬鹿が!き、キライだよっ!大っキライだ!」
「嫌いなんですか?」
「あっ、たりまえだろうがっ!何で俺が、お前なんか――」
「私は結構好きですよ。」
懸命に否定する言葉が止まる。同時に息も止まった。
ニアが俺に手を伸ばしてくる。
何だ、何だこれ?
何が起きているんだ?
なん、か、告白されなかったか?
まさかだろう?
こいつも、俺のこと好きなのか?
それってつまりは、両想い?
突き抜けるは、歓び。
弛む顔が抑えられない。
伸ばされた手に、己の手を伸ばしてみる。
ほとんど反射的だった。
もう少しで触れる、というところで、だがニアは不意に俺の手を避けた。
人差し指を伸ばし、俺の持っていた本を指し示す。
「カムブラハムの『預言書理念の定理』ですよね?それ。
お嫌いなのに読むなんて、メロって変わっていますね。」
さっきとは違う意味で、頭に血が昇った。
手を伸ばしていた間抜けな自分が、ひどくみっともなく感じた。
羞恥に全身を焼かれたような錯覚に陥る。
どうにも耐えられず、持っていた本をニアの顔目掛けて力いっぱい投げつけた。
「クソが!死んじまえっ!!」
情けない。
自分の不甲斐無さに、せめて泣くまいと歯を食いしばりながら、俺は部屋から逃げ出した。
『好き』なんて気持ち、腐っちまえばいいのに。
伝えられない気持ちが消化されることもなく、俺の苦しみが終わることもない。
ギャグみたいな、そうじゃないみたいな。
天然たらしのニアも悪いけど、素直になれないどころか攻撃的なメロも悪いです。
マットをどのような位置で出そうか、未だに悩み中。
友達?メロラブ?ニアラブ?うーん。
...20080916
×おしまい