往き地に着けば生き血で乾杯しようじゃないか
「そうだなぁ、僕の友達の話なんだけれどもね。」

月はおもむろに口を開いた。
夢中で作業を続けていた竜崎が、興味深げに声の主に目を向ける。
一つも聞き漏らすまいと、眼を皿のようにして、月の奇麗な形をしている快い声(おと)を奏でる唇を見つめた。
そんな竜崎の視線をモノともせず、月は手元の端末に映し出していた現在調査中のヨツバ社の資料に目線を集中する。

周囲では、総一郎をはじめとしたいつものメンバーが、いそいそとキラ調査を続けているが、
手を動かしつつ、鎖で繋がれた2人に自然と気を配っているようだった。
ほうっておくと、いつまた殴り合いのケンカを始めるか解かったものではないからだ。
そんな周囲の様子も把握しつつ、月は話を続けた。

「僕の友達――Aとしておこうか。彼は、とある相手Bに、熱烈なアプローチをされていてね。
 ただ、AはBのことをまったく好きになれないどころか、しつこく云い寄ってくるから、
 逆に相手を疎ましく思っているんだ。」
「一方的な愛情ほど、疎ましいものはありませんからね。」
「……解かるんだ?」
「一般論です。」

相変わらずの無表情で、竜崎は手にしたフォークを掲げると、あらゆる角度から眺め始めた。
先程のおやつ休憩時、ケーキを食べた際に使っていたものだ。
フォークのデザインのくぼみに、チョコレートの食べ後を見つけて、にやりと口元を緩めている。
眼の端で竜崎の行動をとらえた月は、背筋にうすら寒いものを感じながらも、気を取り直して話を続けた。

「Bが、どれくらいしつこいかというとね。
 毎日のように『好きだ』などと告白するし、Aの後ろをついて歩くのは常だし、
 勝手にAの私物をコレクションするだけでは飽き足らず、
 彼が使い終わったもの――たとえそれがゴミだとしても、総てを保管して、使った経緯をメモしたりしているようなんだ。
 他にも、わざとらしく体を密着してきたり、Aが座っていたイスに頬ずりしたり、匂いをかいだり、と。
 とにかく”異常”としか云いようがない有様なんだよ。」
「それはひどい。Bは完璧なストーカーですね。しかも、相当悪質な。」
「そう、そうなんだよ!」

ここぞとばかりに月は肯定した。
そんな様子を少し不思議に思い、竜崎はかっくりと首をかしげた。

「そんなに迷惑をしているのであれば、警察にご相談したらどうですか?」

月くんのお友達なら夜神さんたちがきっとご協力してくれますよと、アドバイスをくれた。
本来総一郎たち捜査一課は、ストーカーといった類の被害は管轄外だが、担当者に紹介しやすい立場にはある。
そういった意味では竜崎のアドバイスは的を射ているが、月が聞きたいのはそういうことではないのだ。

「それがね、竜崎。
 ――相手は警察が手出しできないような、とんでもないバックボーンの持ち主なんだ。」
「なんと。よくある陳腐な映画さながらの設定じゃないですか。Aさんお気の毒ですね。」

そうだよ、お気の毒なんだよ。解かってくれるんだね、解かってないようだけど。
月はこめかみをピクピクと蠢かせ、大きなため息を吐く。
まだだ。まだ僕は諦めない。
月は気を取り直して話を進める。

「君も、ストーカーは犯罪だと思うよね?」
「ええ。よろしくありませんね。」
「鼻をかんだゴミを収集したり、脱いだ下着に顔をうずめて匂いを嗅ぐなんて、最低な行為だろう?」
「Bさん、そんなことまでしているんですか?精神異常者として病院をご紹介してあげた方が良いですよ。」
「…………」

そうなのだが、そうじゃないんだ。
話の噛み合わなさに、月は眉間にしわを寄せ、頭を抱えた。
どうしてこんなに正論を云えるのに、気付かないのだろう。
遠回し過ぎるのだろうか?
それとも、気付いていてわざと話を誤魔化しているのか?
いっそ僕が諦めの境地に達すれば、事は穏便に済むのかもしれない。
…いやいや、諦めてはいけない。諦めたら試合終了だと、どこかの偉い先生も云っていたじゃないか。
安穏な職場にするためにも、今度は直球勝負でいってみよう。
月は気合も新たに、体ごと竜崎に向き直った。

「竜崎。」
「はい。」
そのフォークはさっき僕が使っていたものだと思うんだけど?
「そうです。先程おやつで食べた生チョコのせティラミスケーキを食べる際に、月くんが使っていたフォークです。」
「――じゃあ訊くよ。君はそのフォーク、これからどうするつもりなの?」
箱にしまって大切にします。
「…………」

直球勝負は、直球で月に打ち返された。

「どうしました月くん?具合でも悪いんですか?今日は捜査を中止して、早めにお休みしましょう。」
「いや……」
「遠慮しなくていいんですよ。私が手厚く看病してあげますv

にたーりと、何やら含み笑いを浮かべる竜崎。
その言葉に甘えて寝込みたいのは山々だが、そんな無謀なことをできるはずがない。

「竜崎、さ。」
「何ですか?」
「まともな恋愛経験ないだろ?」
「…………」
「?」
「月くん。」
「何だい?」
「安心してください。私が愛しているのは月くんだけです!

違う。
そうじゃないんだよ、竜崎。

「僕の話聞いてた?」
「ええ、もちろん。一字一句すべて、私と月くんのメモリアルに記憶済みです。」
「…うん。じゃあ訊くよ?
 ――他人の使用済みの備品を収集したり、私物をコレクションする行為は?」
「病的なストーカーです。」
「ストーカーは?」
「犯罪です。」
「じゃあ、君が今やっていることは何なんだ?!

すると竜崎は自信満々で答えた。

「キラ捜査と実益を兼ねた、愛の収集活動です!」

その直後、色々な我慢の限界を達した月始動による、大立ち回りが開始された。

L:「Aさんってひょっとして、月くんのことですか?」
月:「やっと解かってくれたのか、竜崎!」
L:「迷惑してるんですね?」
月:「その通りだよ!」
L:「解かりました。――松田さん、ストーカーは犯罪です。即刻やめなさい。」
松田:「何で僕?!」

的な展開になります。
ストーカーは自覚ないですからね。
世界の名探偵も例外ではありません。

...20160523
×おしまい