L月であって、L月ではない話です。
月が月であって、月ではない話です。

ぶっちゃけ、月という名の猫です。それだけです。人間になったりなんかしません。本物の猫ちゃんです。

とりあえず読んでみようという方だけ、どうぞ。   
  
ねこばか
目が覚めたのに、身体が動かない。
…なんてことは、日常茶飯事だ。

「月くん、おはようございます。
 お休みのところ申し訳ないのですが、私の上から下りていただけますか?」

朝の挨拶と共に、いつも通りの口上を述べる。
しかし彼は、私の言葉を子守唄か何かと思っているのか、気持ち良さそうに寝返りをうっただけだった。

「可愛いですね、月くんは…」

上に乗っているので起き上がれず、首だけを必死に延ばして、その様子をうっとりと窺う。
月は目を瞑っていると、まるで笑っているような顔になるから、ますます可愛らしい。

彼らの種族――猫とは、そんな愛らしい、人間に愛されるために生まれたかのような造詣をしている。


自分の世話もできないような私が、猫を飼っている。
私のことを知っている人間からすれば、それはそれは奇跡的なことであるらしい。
まったくもって、失礼な話だ。

月は捨て猫だった。
夜遅くに警報機の音がビービ―鳴り響き、何事かと監視カメラを覗き込むと、玄関先に小汚いダンボール箱が1つ。
別アングルに置いてある赤外線カメラでもダンボールの中身を確認してみたが、中はからっぽだった。
テロや脅迫の類ではないことが解かったので、実際に玄関先に行ってみた。
するとそこでは、箱から抜け出したのだろう、子猫が庭先を駆け回っていたのだった。
箱の中を見て、すべてを理解する。

『拾ってください』

短い文面。とても読みにくい、汚い字。
子供の仕業だとすぐに解かる。

別に、珍しいことではなかった。
私の家はご近所でも一等目立つ、大きな豪邸。
ガキの浅知恵で、「この家なら飼える、飼ってくれる」と勝手に考え、そして無責任に置いていく。
毎度…とまではいかないが、初めてのことではなかった。

ただ違ったのは、その日は自分の世話役であるワタリがいなかったこと。
大きな満月が、空に浮かんでいたこと。
近づいて差し出した私の手を、その子猫がチロリと嘗めたこと。
それだけで、私はこの子を飼うことに決めた。


はっきり云おう。
私は、あの夜オトされたのだ。
この猫に、――月に。

ペットを飼いたいと思ったことは、一度もなかった。
皆の予想通り、私は自分の世話もできない、やろうとしない人間だ。
飼おうと思うはずもない。

しかし、月を一目見たときから、その思いは変わった。
”飼いたい”と思ったのではなく、”この子には私しかいない”と思ったのだ。
放っておけば、この弱い生き物はたちまち死んでしまうだろう。
私が育てなければ。
私が愛さなければ!

それからは、猫バカ人生まっしぐらだ。
気が付けば月の姿を探している。
小さな仕草ひとつに、身もだえするほどの喜びを感じ、書類だらけだった生活感のない殺風景な部屋は、猫グッズに溢れた。
世界情勢でいっぱいだった私の頭の中が、猫知識で日々埋まっていく。

私は思った。
嗚呼、なんて幸せなんだろう…!

寝ても覚めても月に夢中。
私が横になると、指定席ができたとばかりに私の背中に飛び乗ってくる月。
決してふくよかな猫ではないけれど、ずしっと感じられる重みが、そのまま幸せの重みだと私は思っている。



「仕方ないですね。月くんが下りないんじゃ、動けませんものね。
 今日のお仕事はお休みです。」

仕事第一主義だった私が、今ではこんなだ。
今日も私は、幸せの重みをずっしりと感じて眠る。
そして堕落していく名探偵L。

猫バカの私だけが楽しい、猫バカ竜崎小話。
もっといっぱい書きたいのでたぶんシリーズ化すると思われる。

...20060708
×おしまい