The 嘘吐きの祭典☆
その日、大学に行こうと準備をしていた月のケータイに、竜崎から連絡が入った。
なんでも、急ぎ本部であるホテルの方へ来てほしいとのこと。
断って変に疑われるのも面倒なので、月は素直に本部に赴く事にした。


「おはようございます、月くん。」
「あぁ、おはよう、竜崎。
 ――と、どうしたんですか、松田さん?」

本部に着くと、部屋には竜崎がいつものとおりケーキを貪り食っていた。
そして、入口ドア付近には、生ける屍と化した松田の姿はあったが
他の者は席を外していた。
とりあえず、松田に注意を向けた月であったが、対する竜崎の反応は、

「マツダ?何ですかそれ?新種のデザートですか?

ドアに転がる屍など見えないと云わんばかりの態度で、新たなケーキに手を伸ばした。
さして気にしたかったわけではない月は、すぐに松田のことを忘れる事にする。
順応が早いのは、月の特技のひとつである。

「ところで、急に呼び出して何なんだ?
 何か、キラに関する新しい情報でもあったのか?」

今度は呼び出された理由を問い質してみることにした。
すると竜崎は、

「いえ。キラに関して、特に情報は入っていません。」
「……は?」

あっさりと否定の答えを返してきた。
だったら何でこんなに朝早く(午前10時半)に呼び出したんだ、このやろう?ああ?
…なんてこと、思っても、新世界の神になる男は口にも顔にも出さない。
元々、情報を与えた覚えもなかったので、予想の範疇であった。
しかし、それで終わらせては話は進まない。
とりあえず、思いついた文句をオブラートに包んで云ってみる事にした。

「だったら、どうして僕を呼んだんだ?」
『そうだぞ!急いだせいで、リンゴ食い損なったんだぞ!』

ケーキを貪り食う目の前のこの出目金男には聞こえない声が、月と被って文句を云う。
本当は急いだからではなく、
ただ朝から竜崎に呼び出されてイラついたから、八つ当たり的に与えなかったのだが。
そんなこと、微塵も疑いもしない、良い子な死神は、
触れないと解かりつつ、スカスカと竜崎の頭を殴りつけていた。

「とりあえず、こちらへ来てください。」

僕も殴りたいな~とか思いつつ、云われるまま月は竜崎の前に立つ。

「月くんも、何かお飲みになりますか?」
「その“何か”というのが、目の前のティーポットに入っている、
 砂糖の味しかしないであろうミルクティーなら、要らない。」
「そうですか。」

おいしいのに、残念です…と少しションボリして、竜崎はポットに伸ばした手を引っ込めた。
竜崎が落ち込もうが、死神が部屋中をリンゴはないかと飛び回ろうが、月は知らん顔だ。

「――それで、今回お呼びしたのはですね、」
「ああ、どうしたんだ?」

やっと本題に入ってくれるということで、月は竜崎に視線を向けた。

「今日はエイプリルフールと云う、1年のうちで唯一嘘を吐いても許される日だそうです。」
「そういえば、そうだっけ?」
「はい。朝、『キラが自首してきました!』なんて云ってきた、
 どこぞの莫迦が教えてくれました。」
「へえ。」

ドア付近の屍の理由を悟った月であったが、とあるおかしな点に気が付いた。

「今日は4月1日なの?」
「そうですよ。」
「おかしいだろう。東応大学の入学式は4月5日で、僕と君が知り合うのもその日だ。
 僕、冒頭から学校行こうとしちゃったジャン。恥ずかしいなぁ、まったく。」

すかさずキラスマイル。
怖いけど、美人。

「その辺は気にしないであげてください。作者が可哀想ですから。」

珍しく殊勝で優しい事を云ってくれる竜崎。
いい奴だ。

「それに、私は月くんと早いうちにラブラブできれば、それに越した事はない。
 他の設定など、どーでもいいです。」

やはり竜崎は竜崎であった。

「誰と誰が、何だって?聞こえなかったよ。あはは。」
「だから、私と月くんがですね、ラブラブと…」
「耳鳴りかな?これだから、高い所って嫌だよね。酸素が薄くって。」

ホテルのスウィートルームは確かにビルの上部にある。
さすがは月、かわすのがうまい。

軽いジャブも済んだことだし、そろそろ本題へと話を移すことにした2人。

「で、嘘吐きの祭典の日がどうしたって?」
「はい。せっかくそんな素晴らしい許しが出されているので、
 今日1日、嘘を吐き続けようかと思いまして。」
「……うん。それで、何で僕は呼ばれたんだ?」
「これから私が嘘を吐き続けるためです。相手がいなくては意味がないでしょう?」
「…ふーん。」

帰ろう。
月は即座に竜崎に背を向けた。




――愛してます、月くん。

そんな月の背中に、不意をつくように浴びせられた竜崎の言葉。

「貴方の一生傍に居たい…。月くん、心から愛しているんです。」
「……何だい、それ?何のつもりなの?」

ドアへ向けていた足を止め、ゆっくりと振り返る月。

「いつも云ってる、似たような戯言だよね、それ?
 いつも殴って黙らせてるのに、学習できていないのかな、君は?」
「大好きです。貴方の声も、身体も、視線も、立てる足音さえも、愛おしい…」
「…………」

「頂から零れ落ちる、奇麗な髪。その合間から垣間見える涼やかな眸。
 同じく見え隠れする、形のいい可愛い耳。すっと通った鼻筋を挟むようにある、
 焼きたてのパンを思わせる白い頬は、思わず歯をたててしまいたいほど。」

「…………」

「その麗しい唇は、紡ぐ言葉総てを心を振るわせる音楽に変え、
 その音楽を詠う度に覗く舌は、成り立てのアメリカンチェリーを思わせる。
 口に含んで、優しく甘噛みしてあげたい…」

「…………」

「髪の零れ落ちる首筋は、絡みつきたいほど扇情的で。
 服に隠された奇麗なラインを見せる身体のシルエットは…、」


だぁぁあ~~~~~~っ!!!キモい!!
 気持ち悪いんだ、変態!
 嫌がらせとしか思えないぞ、この出目金がー!!!


少し辛抱して聞いていた月であったが、あまりのキモさにとうとう噴出した。
殴って止めさせようと、未だに喋りつづけようとする竜崎の胸倉を掴む。
愛の囁き(?)から、詩的な熱烈変態トークへと変わったのだ、無理もない。

しかし当の竜崎はというと、胸倉を掴まれながら、ケロっとした顔をしていた。

「何をそんなに怒っているのですか?」
「何を、だって?!解からいでか!
 いつも以上にレベルアップした、さっきの変態発言のことを云っているんだ!!」
「だから、何故怒るんですか?」
「はあ?!」

これだけ云って解からないのであれば、拳で解からせてやるしかない。
そう思った月は、迷いなく腕を振り上げることにした。
しかし、その拳が振り下ろされるより一瞬早く、竜崎は云った。

「――今までの、全て嘘なんですよ?
 今日はエイプリルフールなのですから。
「…!!」

なんということであろう。
相手がいないと意味がないという言葉の意味を、賢い月は瞬時に理解した。
そして、竜崎の思惑も。

つまり竜崎は、エイプリルフールに託けて、月への熱烈ラブアタックをするつもりなのだ。
それには相手(つまりは月)がいなくては、確かに意味がない。
本来なれば、そんなこと云おうものなら、月に殴り倒されるのが目に見えている。
しかし、嘘だと云ってしまえば、月に殴る理由は無くなるのである。

「こんの、出目金!!」
「…手、離してください。貴方に殴る権利はないですよね?

私何も悪くなーい、という、更にムカつく態度をとる竜崎。

『Lって面白っ!頭いいんだか、莫迦なんだか解かんねーな。』

いつの間にか、2人の観戦に回っていた死神の面白そうな態度も月を更にイラつかせる。

「お前なんか、大嫌いだ!」
「…つまりそれは、大好きってことですか?逆の意味ですもんね、今日は。」
「! ――だ、大好き。もうと~っても大好きだな、竜崎。君の事が!」
「いや~、どうしましょう。そんなこと云ってもらえるなんて。
 今まで愛してきた甲斐がありました。嬉しいです。」
「はははっ。ホント、素晴らしいヒトだよね、竜崎って!
 ずーーっとここに居たいよ。君の傍に!」
「嬉しいです。もういっそ、結婚でもしちゃいたいですね。」
「あっはははは!最高だな、それ!喜んでお受けするよ!」

負けず嫌いな月。
相手の敷いたルールに、意地でも乗っかってやり続けるつもりだ。


しばらく2人は、嘘と云う名を建前にした云い合いを続けていたが、
ふいにピタリと月の言葉が止まった。

とうとう限界か?と、ラブアタックを続けながら、
自分の勝利をほくそ笑んだ竜崎。

だが次の瞬間、竜崎の身体は、思いっきり月に殴り飛ばされ、宙に浮いた。
しかし、限界がくればこれくらいの攻撃はくるだろうと見越していた竜崎。
半分は自分で飛んで、月の攻撃の衝撃を軽く往なしていた。
さすがは世界の切り札、L。

手応えの無さに、月は悪態を吐くかと思いきや、
満面の笑みを称えたまま、ファイティングポーズをとり続けているのであった。
その笑みの理由は解からないが、自分の優位は変わっていない筈である。
それを解からせてやろうと、竜崎は大げさなため息を吐いて、月に向き直った。

「月くん。初めにも云いましたが、今日は――」
「エイプリルフールだろう?聞いたよ。
 嘘が許された日だもんな、確かに僕に殴る権利はないよ。
 でもさ、知ってた竜崎?
 エイプリルフールで嘘を吐いても許されるのは、午前中だけなんだよ?
「……え?」

「つまり、今さっきお昼12時を過ぎた時点で、僕は君を殴る権利を得たというわけさ
 さあ、逃げずに大人しくしろ、竜崎。
 僕を不快にさせた代償は、きちんと受けてもらうからな?

「ま、待ってください、月くん…!
 今までの私の言葉は、全て嘘ではなく本音で…」
「余計キモい!!!」
「ああぁぁあーーーー!!!」

「松田様、お茶が入りましたよ。」
「へ?あ、あれ?僕は一体……?」

午後3時。優雅なお茶のひと時が流れる。

松田は、壁に頭(むしろ首)一点だけで倒立している格好の自分に気が付いた。
呼ばれた方へ視線を向けると、ゆったりとした仕草で微笑む老紳士ワタリの姿。

「何で僕、こんな格好してるんだっけ?」

朝、竜崎に気持ち良く20発くらいの蹴りを食らったお陰で、
軽く記憶喪失を起こした模様。
悪運の強い男である。

とりあえず起き上がって、ずっと曲がっていた首を解す。
そして部屋の中を見渡すと、とんでもない有り様の竜崎がいた。

口の中を切ったのか、痛い痛いと云いながら、
シュークリームを小さく千切って、ゆっくりとした動作で食べている。

「ど、どうしたんですか竜崎!その傷は!?」
「夜神さんたち遅いですね~。
 警察庁での重要会議のためとはいえ、1人のお茶はつまらないです。」
いやいや、僕居ますって!無視ですか?!ナチュラルエアーですか?!
「何か空気が淀んでいます。――ワタリ、空気洗浄器をここへ。」
ナチュラルでもないし!!排気ガス扱いですか、僕!?
「かしこまりました、竜崎。」
「ワタリさんも、さりげ酷いですよ~!」

云い付け通り、いそいそと機器を運ぶ老紳士の邪魔をしないように、
松田は部屋の隅にちまっと置いてある、自分のであるらしいお茶の方に向かった。
どうせ自分に勝ち目は無い。(ちゃんと解かっている)

が、しかしそこで松田は、とある目的を思い出した。

「そうだ!――あの、竜崎!今朝キラが出頭してきたんですよ~!
 それが驚くことに、竜崎にそっくりで!
 警察庁全部で、キラはLだった!って大騒ぎで、今此処に大群で向かってきてて!」

奇麗に記憶をなくした男は、
朝云った科白をそっくりそのまま、再び竜崎に向かって云った。

「…な~んて。今日はエイプリルフールで、嘘なん、」

「――松田さん。知ってますか?
 エイプリルフールで嘘が許されているのは、午前中だけなんですよ。」

「え?今何時なんですか?…っていうか、やっと僕の声に反応…」

「貴方が中途半端な知識を私ひけらかすから、こんな目に…。
 覚悟はいいですか、鳥頭?もう一眠りくらいさせてあげますよ。
 おやすみなさい。
 
「え?え?なんか、この情景覚えが…デジャヴ?デジャヴーですか?
 っていうか、とてつもなくヤバイですか僕?!
 
 ――うっぎゃぁああぁあ~~~っ!!!


――麗らかな昼下がりに、運のない男の断末魔が響き渡った。
その後…

「ワタリ。午前中の私と月くんの会話は、巧く録音及び録画できているか?」
「はい、竜崎。あらゆる角度からの録画、高性能マイクでの録音。
 全て、完璧にできております。」
「ご苦労、ワタリ。ではさっそく、保存用とオカズ用へとダビングの準備を
 いや、その前に一度確認しておこう。――ワタリ、オーディオの準備を。」
「全て、準備は整っております。」
「よし。ではさっそく――」


  『大好き。もうと~っても大好きだな、竜崎。君の事が!』
  『いや~、どうしましょう。そんなこと云ってもらえるなんて。
   今まで愛してきた甲斐がありました。嬉しいです。』
  『はははっ。ホント、素晴らしいヒトだよね、竜崎って!
   ずーーっとここに居たいよ。君の傍に!』
  『嬉しいです。もういっそ、結婚でもしちゃいたいですね。』
  『あっはははは!最高だな、それ!喜んでお受けするよ!』

  
  
  
――1時間に渡る、映像鑑賞終了…

「嗚呼…、月くん……。
 貴方の愛の告白が、しかもこんなに熱烈なモノが、聞ける日がこようとは…!

前後の苛烈トークを退かされた2人の会話は、愛し合う恋人のそれであった。
結果的に殴られるという惨事に終わったが、それはそれ。

「エイプリルフールというのは、実に良い日ですね。」

転んでも只では起き上がらない変態、…もとい竜崎。
貴重で大切な宝物をゲットできたことに、とても満足したのだった。



一方、そうとは知らず、
数時間前に気色悪さの最高潮を体験した月はというと…

『ライト~。リンゴは?』
抜きだけど、何か?(にっこり)
『何か?って、何爽やかに云っちゃってんだよ!嘘だろ、おい!リンゴ~!!』
「……じゃあ、あの変態出目金を10発くらい殴ってくるなら考えてあげるよ。」
『いや、ダメだろう!できるけど、見えないのに触ったらバレるぞ!
 死神いるってバレちゃうぞ?!キラだってバレちゃうんだぞ?!』
「大丈夫だよ。僕行かないもん。」
『いや、ノートの所有者から離れちゃいけないし!俺いけないし!』
「じゃあリンゴは抜きだね。あははっ、残念!
『楽しそうだな、おい!もういいよ!マリオカートぶっ放すから!』
「ああ、ゲームも禁止だから。
 っていうか、マリオカートって今時要らないから捨てたし。
『鬼ぃ~~!!お前鬼だーーーーっ!!!』

未だイライラ納まらず、
お莫迦で可愛い死神を相手に、ストレス発散しているのであった。
竜崎キモっ!
そんな貴方が大好きv
もとい、そんなキモい竜崎に好かれちゃう、月が大大だーい好き!!

...20050515
×おしまい