団地妻お題、特別番外編第二段です。(よ、ようやく書き終わった…長かった…)
いちお
月バースデー企画……というのもおこがましいほど、時期が違いますが、バスデ企画ということにしてください、スミマセン…<土下座
番外編第一弾(
*:大切な日 episode W)を読んでから読むと、読みやすい……のか?(訊くな!)
っていうか、
団地色が欠片も感じられませんが、気にせずどうぞ
▼
**:忘れえぬ日(episode L)
迷惑極まりない早朝の玄関チャイムで目覚めた私は、原因をベランダに締め出すと、リビングのソファに座った。
いつもの起床時間よりだいぶ早かったが、寝直すにもすっかり目が冴えている。
コーヒーが欲しいところだが、いつもおいしく淹れてくれる優しい息子は、今はまだ夢の中。
起こすのは忍びない。
だからといって、自分でやるとあまりよろしくない惨状にしてしまうので、始めからやろうとはしない。
何をしようか…
やることもなく、ぼんやりと部屋を見回していると、壁の額縁の写真へと視線が向かう。
今は亡き、最愛のヒトの笑顔が、いつも通りステキに輝いていた。
「月くん…」
初めて私が愛したヒト。
初めて私を愛してくれたヒト。
忘れえぬ、ただひとりの伴侶だ。
彼との想い出は、けして甘いものばかりではない。
出会いからして普通ではなかったからだろうか。
それとも、私が”L”で、彼が”キラ”だったからなのだろうか…
夜神月はキラだった。
だが、その真実を知る者は少ない。
世界中を恐怖に陥れた大量殺戮者キラは、ヨツバ社員、火口卿介ということになっている。
事実、火口は第三のキラであった。
だからこそ、捕まえた火口を”キラ”として警察に引き渡したのだ。
嘘は云っていない。
ただ、真のキラを渡さなかっただけのこと。
私は、何の恩恵もない世界のために、命を懸けてキラを追いかけたのだ。
”彼”を得ようとすることくらい、許されるはずなのだ。
「僕は、――人殺し、なんだぞ?何を莫迦なことを云っているんだっ!」
火口をキラとして引き渡したのは、ほとんど私の独断だった。
夜神月にそのことを伝えたのは、火口を引き渡した後。
私に自白までした彼が、もちろんそれを認めるわけがない。
だから閉じ込めた。
抵抗を封じつつ、彼を匿える。一石二鳥の策である。
だが、閉じ込めたくらいで彼が大人しくなるわけがなかった。
部屋の扉、壁、床を叩き続ける音が、『此処から出せ』という叫び声が、連日フロア内に響き渡るようになった。
私は待った。
ただひたすらに、彼が諦めてくれるのを。
何日も、何十日も、私は待ち続けた。
そして――…いつしか、壁を殴る音が止んだ。
声は、そのずっと前から聞こえなくなっている。
彼の居る部屋は、今までが嘘のように静かになった。
だが私は、安堵するどころかますます不安になった。
あの部屋に、もう彼はいないのではないだろうか?
いたとしても、生きているのだろうか?
そんな疑念が頭から離れない。
まさか、とは思う。
ウエディのような腕があるならまだしも、このビルは素人が入ることも、また逆に出ることも容易に出来ない。
だが、夜神月なら――…
不安になる。
だが、容易に扉を開くことはできなかった。
扉を開かせることが目的なら、これは罠だからだ。
だが、だが…
色々な”まさか”と”もし”をシュミレートし、私は約3ヶ月ぶりに、彼の居る部屋の扉の前へと立った。
カギが壊された様子はないが、安心は出来ない。
何があっても大丈夫なよう、用心深く扉を開けた。
かくして彼は、部屋の中に――居た。
彼は扉正面の壁に、死んだように凭れ掛かっていた。
「――月…くん…?」
部屋の惨状は酷いものだった。
壁は傷だらけ、家具は半壊し、絨毯は捲り上げられ、カーテンはビリビリに破かれていた。
すべて、彼がこの部屋から脱出しようとして失敗した痕だ。
彼自身も酷い有様だった。
水と保存食程度はこの部屋で確保できるようにしておいたが、数ヶ月にも及ぶ軟禁ですっかり衰弱している。
頬はこけ、顔色が悪い。
壁でも引っ掻いたのか、爪が捲れ、乾いた血がこびり付いていた。
ゆっくり近づいて、そっと手を差し伸べる。
指先が彼の肩に触れようとした、そのときだった。
「…はぁっ!」
「!」
伏せられていた顔がきっと私を睨み付けたかと思うと、腹に衝撃を受け、手首を背中に回され、あっという間に組み伏せられてしまった。
まだそんな力があったのかと驚くほど、すごい力であった。
完全に油断した。
彼の衰弱した姿に、演技の可能性を失念していた。
「りゅ…崎…。僕を、ここから出すんだ。」
「…………」
だが、あながち全てが演技でもないかもしれない。
息が荒く、私を押さえ込んでいる彼の腕からは、力を入れすぎて微かに骨が軋んでいた。
首を捻り、彼と目を合わせる。彼の目は充血し、殺気すら孕んでいた。
やはり、衰弱の様子に嘘はないようだ。
ならばこの行動は、最後の力を振り絞っての賭けか。
「ここから出せっ!」
「出て、どうするんです?」
「僕がキラだと名乗り出るに決まってる!」
「……貴方はまだ、諦めていないのですか…」
半ば予想の範囲ではあったが、落胆は大きい。
どうして諦めてくれないのだろう?
その執念を、恐ろしいとさえ感じた。
「そんなに死にたいのですか?」
「死にたい死にたくないという問題じゃない。
――僕がキラである事実を、ないものとしたくないんだ。」
「何故です?黙っていれば、貴方は助かる。
夜神さんら家族を傷付けることもなく、キラ事件は解決するんですよ?」
「僕は助かりたくて、お前に自白したわけじゃない。
僕はキラとして行ったことすべてを、後悔していないし、間違っていたとも思っていない。」
「なら、何故自白を?」
「終わらせるためだ。
キラである僕が、終わらせなければいけないんだ。」
「――――」
強い目だった。
負けず嫌いで、頑固者。
そんな彼に、どうしようもなく惹かれる。
誰にも渡したくない。
失うなんて、以ての外だ。
「たとえ名乗り出たところで、誰も信じませんよ。
お忘れですか?私は世界の切り札、L。そのLが出した答えは絶対です。
キラは火口、キラはもう捕まったんです。この事件は終わったんですよ。」
「終わってない!僕が生きている限り、この事件は終わらない。
世界が”L”の答えしか信じないなら、お前が僕を突き出せばいい!そうすれば、きっと…」
「御免です。」
「何故だ?!お前は僕を…、死刑台に送るんじゃなかったのか…?
どうして僕をキラとして……、終わらせてくれないんだよ…っ…」
押し出す声は嗄れていて、泣いているように聞こえた。
泣かせたいわけではないのに。
項垂れた、彼の力が緩む。
その隙を見逃さず、腹筋を使って彼を弾き飛ばすと、今度は逆に彼を組み伏せた。
力で負けるとは思っていない。衰弱している相手なら、なおさらだ。
「子供がいつまでも、生意気云ってるんじゃないですよ。」
「くっ…離、せ!」
「貴方がキラとして行ったすべての罪を失くすとは、ヒトコトも云っていません。
貴方はキラです。それは変えようもない事実です。」
「だったらどうして僕を助ける!?
お前は”L”なんだろう?!世界に嘘を吐いてまで、どうして!?」
「――貴方は、死で罪が償えると思いますか?」
「なっ、それは……。そ、そんなの関係ないだろ。
世界がキラの死を望んでいるなら、キラである僕がそれを請けるのは当然のことだっ。」
「なら、この部屋に閉じ込められて、ひとりになったのに、何故死ななかったのですか?
そんなに死にたければ、いくらでも方法はあった筈です。」
「……”夜神月”の死では、意味がないからだ。
”キラ”である”夜神月”の死を、世界は求めている。」
「自惚れるんじゃありません。世界はそんなもの、求めちゃいませんよ。
世界なんて、平和すら求めていないんです。
自分さえ良ければ、他はどうでもいいと思っているんですよ。」
世界が本当に平和を求めているなら、キラは生まれなかった。
キラという哀れな救世主は、現れずに済んだはずなのだ。
抵抗が止んだ。
反論もない。部屋は再び静かになった。
私の言葉が真実であることを、彼も解かっているのだ。
捕らえていた腕を解放し、ゆっくりと彼の上から退いた。
彼の腕を掴み、反動をつけ、冷たい床から彼を引き起こす。
演技の可能性が完全に否めたわけではないが、衰弱した彼を、これ以上痛めつけるような真似をしたくなかった。
「らい、」
「竜崎…でも、僕は…ひとを……、殺して、いたんだよ……?
その僕が……生き続ける、なんて……」
今まで見たこともないような弱々しい眼をして、彼は私を見ていた。
これは……演技ではない、本心だ。
縋るように見つめる彼の手を、私はそっと握った。
「奇麗な手ですね。何も知らない、無垢な手です。
そしてこの手は、とても温かい。」
「ち、がう……」
「………人を殺して、楽しかったですか?」
「なっ…」
その質問に彼は、弾かれたように眼を見開くと、そんなことあるわけがない、と強く首を横に振った。
「貴方はキラとして行った様々な行為を、どう思っていますか?」
「…後悔は、していない。だからこそ僕は、ここまでキラとしていられた……。
でも……」
「”でも”?」
「……もう、やめるんだ。だ、から…」
「”だから”、キラとして死ぬと?」
「……何もなかったことになんか、できないし…しては、いけないんだ。
それが、キラとしての僕の責任…だから。」
「貴方を見ていると、いっそ犠牲者のように見えてきますよ。
”責任”?貴方ひとりの命で、今まで死んだ者たちすべての命の責が負えるんですか?
私には、死ぬことで逃げようとしているとしか思えませんね。」
「…っ!――少なくとも、もうキラに縛られることはなくなるだろ?
本物のキラが死ねば、世界政府の体裁も整う。
お前の仕事も終わり、キラ事件は完結する。
それとも……”生きる”ことで、僕に罪を償えと…?」
「それもそうですが。どちらかといえば、それは”おまけ”ですかね。」
天井の一点を見上げながら云った私の言葉に、彼は胡乱げに眉間にしわを寄せた。
「私は、貴方と生きていきたいだけです。」
「!」
「”L”として、私がくだせる唯一の選択肢なんです。
私、結構本気で考えたんですよ、これ。」
私自身の本心は、彼を幸せにしてあげたい。
だが、私にも”L”としての義務がある。
自らの命を危険に晒し、いざキラを捕らえてみれば、好きになったヒトでした。
とはいえ、『だから許そう』などと簡単に割り切れるものでもないのだ。
彼がキラだと解かった今も、キラは敵であり、悪だと思っている。
裁かれるべき対象だ。
だがしかし、……彼を失うなんてことは考えられなかった。
できるわけがないのだ。
考えて考えて、答えが出せず、それならと何も考えずに己の気持ちと向き直った時、
漠然と浮かんできたのが、『夜神月と一緒に生きていきたい』という想いだった。
その答えは、想えば想うほど強くなる。
ならば、そうしようと決めた。
”L”として生きてきた私が、導き出した、それが答えなのだ。
「もしかしたら、将来私は、自分で出したその答えを何度か後悔するかもしれません。
でも、その度に貴方と一緒ならば、結局は同じ答えを出しただろうと納得できると思うんです。
だから貴方と一緒に生きていきたい。だから、火口をキラだと仕立て上げたんです。」
火口に悪いとは思っていない。
だって、彼は間違いなくキラだったのだから。
キラは悪。
許すわけにはいかない。
ただ、唯一の例外が”夜神月”だというだけなのだ。
「”罪”というモノは、眼に見えません。それとも、貴方には見えますか?」
彼は釈然としない顔をしつつも、弱々しく首を横に振った。
「罪を償うなんていうのは、結局は自己満足でしかないんですよ。
世界は火口をキラとして裁くことで、満足した。
だから私も、満足するやり方で貴方を裁くことにしたんです。」
「…………」
「月くん。キラの行為を何もなかったことにして”生きていく”のは、苦しいことですか?」
「……苦、しい…」
「何もなかったことにして”生きていく”のは、怖いことですか?」
「……怖い、よ……」
「その答えを聞けてよかった…。
これで私は、キラである貴方を許せます。」
生き続けることで、彼は現実を見続けることになる。
キラがいなくても、動き続ける世界を。
正義のために戦う神など、必要なかったという真実を。
それは、彼の目指していた世界の否定。すなわち”キラ”の否定だ。
彼はこれから、そんな世界で生きていかなければならないのだ。
それが苦しい、それが怖いと云った。
キラでいられる今のうちに死んでしまえれば、彼はそれら現実を見ずに済み、跡形の後悔もなく満足できるだろう。
でもあえて、だからこそそんなことはさせない。認めない。
「生きてください。」
「りゅ、…き……」
嫌々をするように、彼は首を横に振る。
そんな彼を、ずっと掴んだままでいた手を引っ張ると、自分の胸の内に納めた。
逃がすまいと、強く抱きしめる。
「私と一緒に、生きてください。」
「…………」
「お願いです…。私の傍にいてください――…」
本当は、罪や罰もなく、ただ彼を独り占めしたいだけなのかもしれない。
このヒトを得られるのならば、私は……
世界を敵にすることすら、怖くないのだ。
「愛しています、月くん。」
彼の顔を仰向かせ、乾いた唇に、ゆっくりと口付けた。
名残惜しむように、下唇を舐めて湿らせてやった。
もっと私の気持ちを伝えたくて言葉を捜したが、どうしても愛している以外の言葉が見つからなかったので、もう一度それを伝えた。
伝えたら伝えたで、またキスがしたくなり、私はやっぱりそれをした。
何度かそれを繰り返していると、とうとう観念した彼が、強く私の肩を押し返した。
まあ、手は離さなかったが。
彼はその行動も含め、疲れたようなため息を長々と吐いた。
「……お前は、我が侭ばっか…。矛盾、してるし…、わ、け解かんない、よ……」
「すみません。でも、私前からこんな感じです。」
「確かに、な……。ホント、嫌な奴…だな。お前って…」
彼は、幻のように小さく笑うと、ゆっくりと倒れてきた。
彼の全体重が、ぐったりと私に凭れ掛かる。
気を失ったのだ。
無理もない、3ヶ月にも及ぶ軟禁生活だったのだから。
「月くん……」
腕の中のぬくもりを、もう一度強く抱きしめる。
彼の名を呟きながら、絶対に離すまいと、誓った。
その後しばらく、月くんは高熱と軽い栄養失調で寝込んだ。
この3ヶ月分の、気を張り詰め続けていた疲れも出たのだろう。
寝込んでいる間、私は飽かず彼の顔を見つめ続けた。
考えてみれば、久しぶりに会いまみえたわけだ。
水分が抜けてパサついた髪を、指に絡めるようにして撫でる。
もうそれだけで、満たされる感じがした。
「考えたんですが……」
3週間後、ようやく起き上がれるまで回復した彼に、私は云った。
「私たち、結婚しませんか?」
「…………は?」
それは、唐突といえば唐突だが、彼が眠り続けている間に考えていた、私なりの”答え”であった。
「…結、婚?またお前は、なに莫迦なことを…」
「私は本気です。」
「……。なんで結婚?寝言は寝てからにしてくれ。」
「だから、私は本気なんですってば。」
私は、本当の本当に本気で考えたのだ。
将来の話、優秀な彼が世に影響を及ぼさないはずがない。
だいたいキラが捕まった今、夜神月は世間一般的には”Lの協力者”だ。
まだ学生という身分ではあるが、いずれその成果は評価され、彼は日本警察なりなんなりに歓迎されるだろう。
もちろん自白までしようとした彼が、それを良しとするわけがない。
それに私は、彼を手放すつもりはなかった。
となれば、Lの助手なりに仕立て上げ、連れ去るほかないではないか。
しかし、夜神月というこれほど優秀な人間を、彼の父親や周囲の人間がそう簡単に手放すとは思えない。
Lの協力だけならば、行動を共にしなくともできる。
むしろ、離れての作業の方が、行動範囲が広がり都合がいいだろう。
依頼をこなすには合理的だが、そんなことをもちろん私が望むはずがなかった。
私にとって、仕事よりなにより、彼と一緒にいられることが重要なのだ。
一緒にいるためには、理由が必要だった。
できれば、二度と離れることのないような理由が。
夜神月がキラだとバレずに、私のそばに彼がいる状況を、周囲が納得するような画期的な理由。
そしてよーく考えて、出した答え――それが…
「……いくら父さんたちに僕がキラであることを伝えないためとはいえ、”結婚”はないだろう?」
「それだけではありません。私が貴方と結婚したいんです。
――愛しています、月くん。
私と、結婚してください。」
「そんなこと……、罷り通るわけがない。」
「結婚したくない、とは、云わないんですね?」
「…………」
なんとなく云ってみた科白に、彼は思った以上に過敏に反応した。
青白かった顔に赤みが差し、眼を大きく見開いている。
「結婚したいと、思ってくれて……?」
「う、うるさいっ!ただ、頭の固い父さんには一番有効な手かもしれないと思ったまでだっ!」
早口で云い繕おうとするところが、逆に私の問いに肯定しているように思えた。
「月くんっ…!大好きです!!」
「は、離せ莫迦っ!このっ…」
抵抗する彼を組み伏せ、私はキスの雨を降らせた。
そのままコトに及ぼうとしたが、全力で殴られ拒否されたので、泣く泣く諦める。
それでも嬉しさいっぱいに、私は彼を抱きしめることをやめなかった。
「月くん。私と、結婚してくれますか?」
「…それしか方法がないんじゃ、しょうがないだろ。」
「月くん。」
「………解かったよ!
”こちらこそ、宜しくお願いします”!…これで満足か?」
「できれば、誓いのキスも…」
「調子に乗るなっ。」
首をぎりぎりと絞められたが、ちっとも苦しくなかった。
むしろ、幸せの感触を味わっているとさえ思えた。
さらに数日後、例のビルの一室にて、一枚の紙切れを夜神月と共に睨みつける私の姿があった。
「これは……」
婚姻届――ではなく、死亡届書だった。
「僕は、死ぬのか。」
「表向きは、ですよ。死亡届を提出すれば、何の支障もなく私の元へ嫁げるでしょう?」
「とつ……まあ、そうだな。ヒト一人が消えるには丁度いい。」
「安心してください。それを提出したところで、家族に二度と会えなくなるなんてことはありません。」
「…………。
――否、もう会わない。その方がいいと思うんだ。」
「しかし、それは……」
「その代わり、お前がずっと一緒に居てくれるんだろう?」
「もちろんです!ずっと一緒ですっ!」
「なら、いい。……お前相手じゃ、逃げられそうもないしな。」
「はい。絶対に離しません。」
「………ありがとう。」
そうして、彼は死んだ。
キラとしてではなく、”夜神月”として。真実を隠したまま。
紙面上の死ではあるが、キラ事件はこれで終結したのだ。
奇しくもその日は、彼の生まれた日と同じ日であった。
彼と2人で過ごした年月の間、彼の誕生日を祝ったことは一度もない。
彼曰く、死んだ日を祝われても困るし、さして興味もないとのこと。
私も特に祝い事が好きな性質でも、日々過ごすだけで、日付を気にする性分でもなかったので、構わなかった。
彼と一緒に居られれば、それだけでよかった。
しかし、それを変えた者がいる。
誰あろう、私と月くんの愛の証たる一人息子、ライトだ。
亡くなった月くんの誕生日のために、ケーキを焼いてくれたのだ。
しかもそのケーキ、ただのケーキではなかった。
「ママ、お誕生日おめでとう!
パパ、ママ、結婚記念日おめでとう!」
結婚記念日…
今まで月くんの誕生日は、紙面上でとはいえ、彼が死亡した日でしかなかった。
(そうか…、そんな考え方もありましたね……)
なんて素晴らしい日なんだろう。
おそらく、彼を家族と世界から奪ってしまったという後ろめたさをどこかに持っていたのだろう。
だからあえて、何もなかった日にしたかったのかもしれない。
最愛のヒトを失ってまで得た子供に、正直疎ましさと恨みを抱いていた時期もあった。
その時の自分は、なんと愚かだったのだろう。
(私は、なんて莫迦な人間だったのだろうか…。
そんなヤツが、こんな幸せな気持ちにしてもらえるなんて、罪深い…申し訳ない…)
泣きたかった。
でも、泣けなかった。
泣くことでこの罪悪感から逃げてはいけないと思ったから。
それでも、どうしても堪えきれず少しだけ涙を零した。
手に持った月くんの写真を、少し濡らしてしまい、慌てて拭った。
拭った下で、最愛のヒトが優しく微笑んでいた。
まるで、もういいんだと私の罪を許してくれているようだった。
月くんは、私と一緒に生きる道を選んだが、本当に幸せだったのだろうか?
私の我が侭で彼の人生を縛り、また私の我が侭で、彼は一生を終えてしまった。
「月くん……」
過ぎ去った過去の夢想から醒め、再び彼の写真と見つめ合う。
幸せだったか、という問いかけを答えてくれる者は、もうこの世にいない。
だから、何も云わずにただただ彼の笑顔を見つめていた。
ガチャ…
「ふっぁ~…、おはよう、パパ…」
どれだけ時間が経ったのか、それほど長い時間ではなかった気もするが、欠伸を漏らしながら息子のライトが起きてきた。
私と同じ黒い髪に、少し寝癖がついている。
でもその顔は、最愛のあのヒトの生き写し…
「――ライトは、幸せですか?」
「え…?」
彼とそっくりな息子の顔を見ていたら、そんなことを口走っていた。
自分でも何を莫迦なことをと、内心呆れてしまう。
ライトも起き抜けにそんなことを訊かれても、困るだろう。
案の定、寝ぼけ眼をぱちくりと瞬いて、黙り込んでしまった。
取り消そう、そう思い口を開こうとしたところを、息子の声が遮った。
「もちろん、幸せだよ。」
そしてゆっくりと、笑った。
嘘偽りのない、心からの奇麗な笑顔だった。
「パパと一緒に居られて、パパに愛されている僕は、とても幸せだよ。
いつも僕を愛してくれて、ありがとう。パパ。」
『………ありがとう。』
――それは、20年前の今日、あのヒトが云った言葉と同じだった。
(そうか…そうだったんですか…。貴方は、だから…っ…)
絶対に離さないと云った私に、彼は『ありがとう』と云った。
それはもしかすると、私の訊きたかった問いの答えなのではないだろうか。
あの時は、彼が私と共にあることを受け入れてくれたことの悦びで、それほど深く考えていなかったけれど。
『愛してくれて、ありがとう』
そう彼は、伝えたかったのではないだろうか。
これは、とてつもない自惚れかもしれない。
それこそ答えを知ることは、絶対にできない。
だが、彼とこんなにも似ているライトが云った言葉なのだ。
(そうだと、思いたい……)
だったら、後悔なんかしてはいけない。
この幸せを、真正面から受け止めなければならない。
「はい…。愛しています、ライト。
そして…、貴方のママのことも。今でも…、いつまでも……」
「……うん。」
やっぱり今日は、なんて素晴らしい日なのだろう。
これほど素晴らしい日があって、いいのだろうか。
しみじみと幸せを噛みしめていると、「ところで」とライトに声をかけられ、月くんの写真から再び息子へと視線を戻す。
「さっきからベランダが騒がしいようなんだけど……」
「ああ、2匹ほど害虫駆除しておきました。」
「害虫…」
「今日という日を邪魔する者は、皆、害虫です。」
「……そうかも。じゃあ、いっか。」
すっかり忘れていたが、ライトが起きてきたことで騒がしくなったベランダに、再び眉をひそめた。
私の言葉にライトが納得してくれたことで、気分が晴れやかになったのはいうまでもない。
何事もなかったように、気分良く目覚めのコーヒーを息子にお願いした。
了承したライトがベランダに背を向けたことで、外は尚一層騒々しくなった。
だからといってライトは気にしない。元より私も気にしていない。
「よーっし!今日はとびっきり美味しいご馳走を作るぞーっ!」
「それは楽しみですね。」
「うん。もちろん、ケーキも焼くから。期待しててね。」
「はい。…では私は、家中の月くんの写真を磨くことにします。」
「あははっ。きっと、ママすっごく喜ぶと思うよ。」
息子の言葉が、ひとつひとつ私の中に染み渡る。
それが涙となって零れださないように、慌てて息子に背を向けた。
切ないような幸せを感じる、そんな朝だった。
いや、長かったな…。(まるで他人事のように)
まさかこんなに時間が掛かるとは……思ってもい、いなかったんです、よ…(マジ)
書き始めたのは第一弾が終わってすぐだったのに。
時間が経つのって、早いね…(遠い目)
ってことで、前言通り竜崎視点の月バースデー話です。
さらっと書くつもりが、本編とダイブ密接した話になってしまいました。
そしてそして、今までずっとボカし続けていた年数表記を、とうとうしました。
ぶっちゃけ、決めずにぼんやりとしたイメージのまま進めていました。
そして、恐ろしいことになりました。
8割方、そうでもないんですが、約2名が裏切ってくれて…
いかんわね…
ちょっと、本気で設定変えたいとまで思いました。
でも、あえて押し通すことに決めました。
それはそれで、まあ、楽しいかなと。
お金の力って、凄い!ってことで流していきましょう。
...20070513
×おしまい