自分の好きな人の、変なクセ。
知ったときあなたは、喜ぶ?それとも落ち込むだろうか?
大きく空回り、上を見て葛藤
「ずっと気になっていたんですよ。
貴方の胃は何色なんだろうって。
だって、メロはチョコレートばかり食べていたから……」
銀色に輝くメスを片手に、ニヤニヤ(決してニコニコというレベルではない)笑うニアに、恐る恐る声をかけた。
「あのさ、マジで怖いんですけど。」
「ああ、すみません。つい、悦に入ってしまって。」
好きな人に膝枕されているなんて、絵に描いたような幸せなシチュエーションなのに、メロは背中に冷や汗を感じていた。
服の上からとはいえ、メスを腹部にあてがわれていたのだ。誰だって肝を冷やすだろう。
さりげなく己が死んだ前提で話が進んでいるのも、要因の一つかもしれない。
(”食べていた”って、現在過去未来も食べ続けるつもりでいるっての。)
メロだって、ニアが検死医という職についていることを知らなければ、要注意人物として職務質問くらいしていただろう。
いや。たとえ知っていたとしても、刑事という身分柄注意しておくべきなのかもしれない。
それが自分の好きな人で、しかも職場の同僚であるのならばなおさらだ。
それでもついつい許してしまうのは、ニアがこの危険思考を口にするのは自分以外にいないということを知っているからなのだろう。
警戒心の強いニアに気を許されていることが、メロは悦ばしいのだ。
「ニア。お前って、いつもそんな物騒なこと考えてんのか?」
「初対面の人には、たいていそうですね。
その人の特徴を掴んでおかないと、覚えられませんから。」
初対面相手の名前を覚えるために、顔の特徴やら目立ったところを記憶するのは普通だが、
内臓イメージで覚える奴はニアのほかにいないだろう。
自分の時もそうだったのだろうかと、メロはなんとなく自分の胸に手を当てながら、ニアと再会した日のことを思い出す。
メロのことを見忘れていたニアが、再会時に一体どんなイメージを持っていたのだろうかと少し興味を惹かれたが、
解剖の話になると話が止まらないのでやめておく。
告白して以来、大した進展もない現在、もう少しお近づきになりたいメロは、今のシチュエーションを上手く利用して良い雰囲気に持っていきたいのだ。
「このあと、何か仕事入ってるか?一緒に飯でも……」
「そんな暇ないでしょう?貴方、これから始末書と報告書提出しなきゃならないんだから。」
「あ…。やべ、そうだった。」
この後の自分の予定を提示され、遠まわしに断られてしまい、メロはひどく沈んだ。
そんなメロの様子を見て、ため息と苦笑の中間くらいの息を吐いたニアが、メロの額のガーゼに手をあてがう。
先ほどニアが治療したものだ。
つい数時間前、密入国者のアジトで乱闘があり、その捜査に当たっていたメロは、必然的にその乱闘に巻き込まれたらしい。
ナイフを持った相手と戦闘となった際、瞼の上をぱっくり切られたのだそうだ。
血をだらだら垂らしながら、検視室に飛び込んできたときはさすがのニアも驚いた。
が、すぐに驚きから覚めたニアがメロに浴びせたセリフは、
「床が汚れたら、ご自分で掃除してくださいね。」
という冷たい一言だった。
しかし、なんのかんのと文句をつけながらも、膝を枕に治療までしてくれたことから、嫌われてはいないと判断できるだろう。
治療を終えた今でさえ、動こうとしないメロを振り払いもしない。
ただニアの場合、相手をするのも面倒な場合、相手を放置する傾向にあるので、一概に好感触とも云い難い。
ここは甘い雰囲気を作り出し、スマートに次に会う約束を取り付けていきたいところである。
去り際にキスができれば、完璧だ。
さっきからどうにか甘い雰囲気を作り出そうとしているのだが、いまいちうまくいかない。
原因は分かっている。
ニアの右手に輝くメスと、ずっと続いている物騒な話の流れのせいだ。
だが、どうにも話題の転換をできずにいる。
その原因も分かっている。
今の話題を、ニアがとても楽しそうに続けているからだ。
好きな相手が楽しそうな顔をしているのだ、ずっと眺めていたいと思うのが恋心というものだろう。
まして、表情に乏しいニアが見せる、奇跡のような時間である。
できるだけ長く続けていたいと思うこの気持ち、きっと誰もがわかってくれるものだろう。
「煙草を吸っていないメロの肺は、それはそれは奇麗なピンク色をしているんでしょうね。
喫煙者の肺は、見れたもんじゃないですから。」
「そ、そうか。」
「絶対、私より早く死んでくださいね。私が丁寧に解剖してあげますから。」
「はは、は…。そりゃ、頼もしいかぎりだ。」
なんともいえない引き攣った笑みを浮かべつつ、メロの葛藤はこのあとしばらく続くのであった。
ロング・タイトル30『赤糸を手繰れば前世の君が付いてきた』と
フリータイトル『珈琲と牛乳と醤油とツナ缶』の続きっぽいシリーズ。
こんな関係が、ウチのメロニアの基礎的な感じですね。
ニアもメロのこと好きなんですよ。アリンコよりは確実に(笑)
...20090628
×おしまい
『刑事さんと検視医さん』シリーズ↓(書いた順)