非常に
微妙なパラレル(キラもLも居ない世界)の続きです。
まさかこんなに続くとは思っていなかったのですが、続いたからには並べてみました。
続いているとはいえ、設定が同じだけなので、バラバラに読んでも問題ありません。
メロニアです。もう一度云いますが、今回は
メロニアになってます。
すべて万事大丈夫!な方は、どうぞ。
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『刑事さんと検視医さん』シリーズ↓(書いた順)
『
赤糸を手繰れば前世の君が付いてきた』
『
珈琲と牛乳と醤油とツナ缶』
『
大きく空回り、上を見て葛藤』
『ロンドに合わせて剣を翳して火に焼かれよう』
ニアはあまり表情に感情を出さないタイプだが、上司にその話を聞いた途端、珍しく驚きで目を見開いていた。
「行方不明?」
「いや、正確には潜入捜査中らしいんだが、ここ1ヶ月連絡が取れないようなんだ。」
毎日山のように送られてくる捜査依頼。
同じく仕事の山を切りくずいていたはずの上司から突然呼び出され、メロが行方不明になっていることを聞かされた。
しばらく姿を見ないと思っていたら、どうやら署内でもちょっとした騒ぎになっているらしい。
他人と一定の距離を取るニアにとって、そんな話知る由もない。
云われてようやく知ったのだった。
「お前のところに、何か連絡とかきてないか?」
「…何故私に?」
「何故って、お前ら仲が良かっただろう?」
メロと同胞であるという認識がいつの間にか広まっていたようで、2人は仲の良い関係だと周囲に認識されていたようだ。
でなければ、本来部署が違うため、ニアのところにこういった話は回ってこない。
潜入捜査のため、1ヶ月連絡が取れない。
検視や遺留物の調査が主な仕事であるニアにとって、それが通常なのか異常なのか判断できない。
これが参考程度の質疑なのか、切羽詰まった藁をも掴む思いの質疑なのか、解からないということだ。
まあ、解からないながら、答えは決まっているのだが。
「最近メロの姿を見掛けないと思っていたくらいです。
お互い連絡先も知りませんし、それほど仲が良いというわけではありません。」
「そうなのか?俺はてっきり……」
「なので、連絡なんてありませんでしたよ。――もう、仕事に戻ってもよろしいですか?」
「あ、ああ。急に呼び出して悪かったな。」
「いえ。失礼します。」
室長室から出て、さっさと己の仕事場に戻る。
全く何をやっているんだ、と何処で何をしているのか知れない同胞を思い浮かべながら。
ロンドに合わせて剣を翳して火に焼かれよう
ニアはその日早々に仕事を切り上げた。
基本的にニアは、他人にペースを乱されるということがない。
それなのにメロの話を聞いてから、そわそわとした感覚が身の内に湧き上がり、仕事に集中できなかった。
元来のポーカーフェイスで周囲には気付かれていなかったが、ニア自身は普段と違う己に苛立ちを感じていた。
(それもこれも、すべてメロのせいです。
潜入捜査だか何だか知りませんが、連絡くらいちゃんと取ればよいものを。)
社会人としてなっていないと、常識的な大人な意見をつらつらと考えながら家路につく。
そんならしくないことを考えてしまうのは、そわそわとする感覚に理由を見出せないからであった。
説明のつかない己の状態に、どうしようもなくニアは苛立っているのだ。
職場にほど近い自宅のアパート。
2階にある自室に向かうべく、鉄骨階段を上った先、ニアはそれに気が付いた。
(誰か、いる。)
玄関前。誰かが座り込んでいた。
部屋は突き当りのため、間違いなくその誰かはニア(あるいはニアの家)の客人である。
シルエットからして、相手は男のようだ。
物騒な街。警察署に近いとはいえ、事件と無縁ではない。
身構えたのは一瞬。
だが、通路の街灯に映し出されたキラキラと光るその太陽のような輝きを目にとめ、すぐにその正体を把握し、力を抜いた。
近付いていくと、その金色に縁取られた整った顔がニアを見上げてくる。
気付いているのに、話しかけてくる様子はない。
目の前で立ち止ると、2人の視線が互いを探るように絡み合う。
「他人の家の前に、勝手に張り込まないでくれますか?」
「…………」
「不審者かと思いましたよ。警察を呼びますよ?」
「……俺、警察ですけど?」
そう云って太陽の輝きを持つ男――メロは、弱弱しく笑った。
「…おかえり。早かったな。」
そんなことを事もなげに云い放つメロに、ニアは身の内のそわそわした感覚が霧散するのを感じていた。
メロの顔を見て、説明のつかなかった気持ちを理解する。
自分は、この男を心配していたのだな、と。
無事な姿を見て、安心した。
人並みに他人を心配するようになっている自分に、ニアは少々驚いていた。
それを顔に出すことも、言葉にすることもなかったが。
「行方不明になっていると、聞きましたよ?」
「ああ……。まだ、連絡取ってないから、行方不明扱いかも。」
言葉を交わし、違和感を感じた。
様子がおかしい。
元気がない。いつもの覇気が感じられなかった。
「どうかしましたか?」
違和感の理由を問いただしてみるが、メロはそれを無視して玄関の扉を親指で指し示し云った。
「……中、入らないか?」
「―――…」
「シャワー貸してくれ。あと、コーヒーが飲みたい。」
「…世話が焼けますね。」
「悪い……」
メロが立ち上がるのを待たず、鍵を開けると、先に中に入っていく。
自分に続いてメロが入ってきたことを背後で気配を感じながら、室内の電気を点けた。
メロがニアの家に来るのは、初めてのことではない。
案内する必要はなかった。
客人を放って、さっさと狭いスペースのキッチンにいき、ケトルに水を入れ、火にかける。
所望されたコーヒーを淹れるためだ。
お湯が沸くのを待ちながら、メロの様子を窺う。
メロは慣れた様子で部屋に入ってくると、リビングにある2人掛けのソファにどかりと座り込んだ。
背もたれに寄りかかり、手足を伸ばしながら独りごちる。
「あー。疲れたー……」
やはりおかしい。
普段と違うメロの様子に、ニアはどうするべきか思いあぐねていた。
ただ云われるがままに部屋にあげ、コーヒーの準備をしているが、頭の中には設問事項がぐるぐると巡った。
――連絡しなくていいんですか?
――潜入捜査と聞きましたが、終わったんですか?
――1ヶ月も、一体何をしていたんですか?
――元気がないようですが、何かあったんですか?
――私に、何を求めて此処に来たんですか?
色々と気になるが、それを訊ける雰囲気ではなかった。
そうこうしているうちにお湯が沸く。
簡易のドリップコーヒーにお湯を注ぐと、部屋中がコーヒーの匂いで満たされた。
キッチンの電気を消し、淹れたてのコーヒーを手にリビングへと向かう。
「どうぞ。」
「……サンキュ。」
ソファのサイドテーブルにコーヒーを置き、背後を回ってメロの隣へと座る。
メロはコーヒーに手を伸ばす様子もなく、ただカップから上がる湯気を見つめ続けた。
どれくらいそうしているつもりなのか。
まだ大した時間は経っていないのだろうが、ニアはだんだん気づまりを感じ始めた。
放っておいても、普段なら勝手に話しかけてくる相手がだんまりを続けるので、場が持たないのだ。
(此処に来たからには、私に用事があるのだろうが…。一体……?)
答えの出ない思考ばかりが空転する。
沈黙は嫌いではなかったが、気になる事項が多過ぎて落ち着かない。
(そういえば、シャワーを貸してほしいと云っていたな…)
体のサイズが違うので、着替えを貸すことはできないが、何とかなるだろう。
大きめのバスローブでも用意しておこうと、立ち上がろうとした時だった。
「…何ですか?」
「何処行くんだ?」
メロに腕を掴まれた。
その行動から、席を外してほしくないことが窺える。
中途半端に腰を浮かせた状態から、再び座り直した。
それでもメロは腕を離さない。
その状態のまま、今度は床のどこかをじっと見据え、再び黙り込んでしまった。
引き止めておいて、変化を見せない相手に、いい加減ニアも嫌気が差し始める。
待っていてもどうしようもないと見切りをつけ、ニアは自分から話を切り出すことにした。
「貴方は一体、此処に何をしに来たんですか?」
「…………」
「まだ仕事中なんですよね?報告に戻ってきたのでしたら、ウチではなく署の方へさっさと行ってください。」
多少突き放すような冷たい云い方をしたのは、己のペースを崩された腹いせも混ざっているが、それだけではない。
なんとなく、迷っているように感じたからだ。
無理にでも押し出してやらなければ、前に進めない。
道を見失った迷い子のような、頼りない様子。
(迷ってないで、さっさと吐き出せばいいのに。
私に話を聞いてほしいから、此処で待っていたのでしょう?)
突き放すことを云いながら、初めからニアはメロを追い出す気はなかった。
そのつもりであれば、部屋に招き入れはしない。
掴まれた腕を振り解かないことでも、許容する姿勢を見せている。
メロにもそれが伝わったのだろう。
天井を見つめ、数秒逡巡してから、ようやく鉛を吐きだすような重い口調でぼそりと話し始めた。
「…俺は、迷ってる。」
「何を?」
「今回のことを、上に報告することをだ。」
今回のこととは、つまり潜入捜査のことを云っているのだろう。
粗暴な行動は多いが、仕事ぶりは真面目なメロが、報告を渋る理由が思いつかない。
解からないことは訊くしかない。
「何故、報告したくないんですか?」
「……お前、キースのことを覚えているか?」
「キース?」
突然云われた名前に判然としないながら、反芻し、該当する人物を思い出す。
その人物は、メロとニアが世話になっていた養護施設ワイミーズハウスの住人の1人であった。
もともと人付き合いが得意ではないニアとは、それほど接点のある人物ではない。
かといって、メロと仲が良かったという印象もなかった。
それは、キースがメロやニアよりだいぶ若年であったことが理由だろう。
それでもあれから7、8年の月日が経っている。
だいたい遅くとも18歳になったら施設を出ているはずなので、キースもすでに退所しているだろう。
「そのキースが何か?」
「会ったんだ。潜入先の組織で。」
メロの仕事は、ギャングや武器・麻薬の密輸、人身売買の組織を主に相手にしている捜査課である。
そこにキースがいたということは、つまり……
「売人、ですか?」
「だったらまだよかったんだろうな。売人なんて、下っ端だろう?」
下っ端であれば、初犯の場合情状酌量が認められ、処置が軽いことがほとんどだ。
罪の程度にもよるが、年齢が若ければ若いほど、刑は軽い。
だが、組織の幹部ともなればそうもいかない。
麻薬等の売買を行う組織は根幹が細かく深いため、叩くことが決まった組織は、見せしめのため派手に制圧される。
捕まれば年齢も犯数も関係なく、刑は重い。
「俺はキースのことを覚えてなかった。たぶん、俺が施設を出る1,2年前くらいに入所した奴だろう?」
「そうでしたか?」
「お前も覚えてないか。本人も云ってたが、おとなしい奴だったからな。」
「キースは貴方を覚えていた?」
「ああ。だから、初め声を掛けられてビビった。潜入がバレたのかと思って。
でも、奴は俺が警察の人間だって知らなかった。
それどころか、本物のギャングになったんだと信じて、組織の奴らにも説明してくれたおかげで、信用を得やすくて助かったよ。」
ガキの頃から素行が悪かったからな俺、と自嘲気味に笑うメロ。
確かに昔のメロしか知らない人間からすれば、正義を掲げる警察より、街を牛耳るギャングの方がしっくりくる。
「施設出の奴らは大体そうだが、例にもれずキースも頭の回転が速くてな。
色々重宝されてて、ヘッドに気に入られているみたいだった。
今回、思ったより根深いところまで介入することができたんだ。キースのおかげだ。
同窓のよしみで、方々に紹介してくれたんだよ。――俺の正体も知らずに。」
「…………」
「正直、辛かったよ。騙しているみたいで。…まあ、騙しているんだけどさ。」
「それが貴方の仕事でしょう?」
「…そう、仕事だった。」
同窓とはいえ、親しかったわけではないキースに、どうしてここまでメロは後ろめたさを感じているのだろうか。
それが不思議でならない。
相手が同窓だから、騙した結果、捕まえることを躊躇している?
いや、そんな筈はない。
メロの性格からして、悪いことをした奴が悪いと割り切れるだろう。
「メロは何も悪いことをしていません。違いますか?」
「俺は悪くない。あんな組織に入ったキースが悪い。
でも、キースは……可哀想だ。」
「可哀想?」
「アイツ……、母親を殺したいんだって。」
「――――」
「母親を殺すために、組織に入ったって云ってた。」
施設に入った子供たちの多くは、家庭に何らかの事情を抱えていた。
キースも例に洩れず、事情を抱える子供だったのだろう。
親を怨む子供がいても、不思議ではない。
「アイツの母親は、薬漬け(ジャンキー)だったらしい。
14の時、孕んだまま捕まって、獄中でキースは産まれたんだと。
当然育てることなんてできないから、キースは養子に出された。
その時が一番幸せだったって、目をキラキラさせながら教えてくれたよ。」
特別親しかったわけでもないキースの事情を知るとすれば、潜入捜査中だろう。
基本的に、入所した子供たちの事情が周囲に知らされることはない。
子供たちの間でも、過去や両親、家族の話は自然とタブーになっていた。
「キースは、扶養先があったのに、ワイミーズに来たんですか?」
「俺もそう思った。だから訊いたんだ。何で、ワイミーズに来たのか。」
天井を見つめていたメロが疲れたように溜め息を吐くと、再び目を瞑り、黙り込んだ。
なかなか続きを話し始めない。
ニアは辛抱強く待った。
遠くで微かにサイレンの音が聞こえる。
夜も更けてきたことで通りの車も減ったのか、走行音はたまにしか聞こえない。
そうやって外界に気を取られていると、不意に掴まれたままだった腕を引かれた。
口元まで招いたニアの手の甲に、ちゅっと音を立てて口付けを落とすメロ。
メロの不意の行動に呆気にとられる。
腕を解放したメロはソファに乗り上げると、肩を押さえつけるようにしてニアをソファに押し倒した。
その間ニアは抵抗するでもなく、ただただメロを見つめ続ける。
両肘でニアの顔を挟むようにして体を支えたメロの金髪が、ニアの顔に掛る。
サラサラと顔を撫でる髪に微かに目を細めながら、ニアはゆっくりと口を開いた。
「……どうしました?」
慌てる様子のないニアに、メロは苦笑する。
「抵抗しねーの?」
「まだ、話の途中ですよ?」
「終わったらいいってことか?」
お互いに言葉を発すると、唇が触れそうになる。
瞬きの風圧すらも感じられるほど、2人の距離は近い。
それでもニアは気に留めず、メロの瞳を真っ向から見つめ返した。
抵抗のそぶりもない相手に、残念そうに嘆息すると、メロはニアの肩先に顔をうずめるようにして倒れこんだ。
メロの体重が、ニアに圧し掛かる。
「重いですよ。」
そう云いながら、空いている方の手でメロの金髪を撫でる。
しかしメロは退く気がないのか、甘えるようにニアの肩に頭を擦り付けてきた。
その様子にニアは諦めたような溜め息を吐きながら身じろぎ、楽な体制を見つけると力を抜いた。
メロのしたいようにさせることにしたのだ。
「それで、キースは何故ワイミーズに?」
天井を見つめながら、ニアはメロの髪を撫で続け、話の続きを促した。
しばらく待ったが、微動だにしないメロに痺れを切らし、撫でていた髪を一房摘みあげ、ツンツンと引っ張ってやる。
それで観念したのか、埋めていた顔を微かにずらし、ようやくメロは口を開いた。
「――金をせびりにきた母親に、扶養先の家を燃やされたんだと。」
「……最低な親ですね。」
「なあ?しかも薬のせいで異常者扱いで、大した罪にならなかったんだと。」
扶養先の家族がどうなったのかは知れないが、ワイミーズに入所していることで、一緒にいられない状態になったのだろうと容易に推測できる。
不幸な生い立ちのキースが、ようやく手に入れた平穏。
いや、育った環境が幸福であったのであれば、生い立ちが不幸だとは思っていなかったのかもしれない。
それが実の母親の手によって破壊されたことで、思い知らされたことになる。
キースが母親を恨むのは当然といえよう。
「キースが云ったんだ。
――今が、母親を殺すために薬ばらまいている今が、人生で2番目に幸せな時だって。」
ジャンキーは、たいてい薬のせいで死ぬ。
キースの母親がジャンキーであれば、薬をばらまくことで、遠回しに母親を死に追いやっていることに繋がっている。
そうかもしれないが、その考え方はあまりに歪んでいる。
「アイツは狂ってる。でも、狂わなきゃ生きてこられなかったんだろう。
違う幸せを探してみたらどうだって、遠回しに足を洗うことを進めてみたけど、『何で?』って鼻で笑われた。」
「…………」
「なんかさ、虚しかったよ。
俺には何もできないどころか、騙して、またアイツの幸せを壊そうとしている。
俺ってサイテーじゃね?」
自嘲気味にクツクツと笑うメロ。
肩先に顔を埋めているので、笑うたびにメロのサラサラとした髪が首筋を踊り、くすぐったい。
ニアは宥めるように、再びメロの髪を撫で始めた。
「ニア……」
「何です?」
「俺は…、寂しい。」
「子供ですか…」
「うん。だから、慰めてほしい。」
メロはのっそりと身を起こすと、ニアの前髪を掻きあげ、額に口付けた。
「嫌だったら抵抗して?」
「抵抗…しなかったら?」
「抱くよ。――前に、お前のこと好きだって、云っただろ?」
再会して初めてニアの家に訪問した時、メロはニアに好きだと伝えた。
だからといって、2人の関係に変化があったわけではない。
幾度となくメロからのアプローチはあったが、性急に変化を求めるものではなく、手探りのようなそれだった。
対してニアは、応えるでもなく、拒否するでもなく、それらすべてを受け流していた。
もとよりニアは、恋愛どころか他者にそれほど興味を持つことがない。
メロに好きだと云われた時も、どこか遠い世界の他の誰かの出来事のように感じていた。
今も『抱く』と云われて、受け入れる気持ちも、拒否する気持ちもわいてこない。
ただ、一つだけ解かったことがあった。
「メロ。」
「ん?」
「貴方は――私に傷付けてほしくて、此処に来たんですね?」
「…………」
唇が触れ合う直前で、メロは動きをぴたりと止めた。
至近距離で見つめ合う。
距離が近いからか、メロの目の中に走った動揺が手に取る様に見えていた。
「私を手籠めにして、拒否されることで、傷付きたかった。…違いますか?」
「何で、そう思う?」
「貴方が真面目な人間だと、知っているから。」
「…………」
「貴方が優し過ぎる人間だと、知っているからです。」
仕事とはいえ、昔の同窓を騙して捕まえることに、メロは強い罪悪感を感じている。
キースに同情し、それでも救えない遣る瀬無さを抱え、自分は酷い奴だと勝手に負い目を感じている。
それを、同じく同窓であり、事情を唯一理解してくれるだろうニアに、詰ってもらいたかったのだろう。
同じ警察の人間であるニアが、立場上メロを責めることはないと解かっているから、違う方法で咎めてもらおうとした結果がこれだ。
あまりに考えなしで、自分勝手な行動は、いかにも莫迦がつくほど真面目で優しい誰かさんが考えつきそうなものだ。
「だから私は抵抗しません。抱きたいのであれば、お好きにどうぞ。」
「……何で?」
「その方が、貴方はより傷付くでしょう?」
「―――…」
貴方は真面目な人間だから、とニアは続けた。
云われたことを反芻し、メロは破顔した。
「クッ…、確かに。」
メロは起き上がり、ソファにドッと背中を沈めると、天井を仰ぎ、両掌で顔を覆った。
云われたことが図星過ぎて、頭痛でも起こしているような眩暈を感じていた。
メロはニアが好きだ。
だからこそ、こんなことで手を出したら、メロはずっと後悔することになるだろう。
そんなことにも考えが及ばなくなっている自分に、メロはようやく気が付いた。
自分はまったく無意味で、莫迦なことをしていると。
安易な衝動のために、大切なものを失うところだった。
「止めるんですか?」
「ハッ!俺が悪かったよ。くそっ!」
ニアが起き上がりながら窺うように訊くと、メロは床をダンダンと蹴りながら悪態を吐いた。
階下の人間に文句を云われたらどうするんだと思いながら、ニアは苦笑する。
やっといつもの彼らしくなったと、安心したのだ。
「コーヒー、冷めてしまいましたね。淹れ直してきましょうか?」
「優しくすんな。ワザとだろ?」
「ええ。今の貴方をからかう、手っ取り早い方法なので。」
「良い性格してんな、お前。」
「今頃気付いたんですか?」
顔を覆っているが、ニアが自分を見ているような気がして、メロはますます居た堪れない気持ちになった。
「あー、くそっ!」
意を決して手を外すと、ニアの方を見ないようにして、置いてあったコーヒーに手を伸ばし、一気に飲み干した。
カップを置き、勢いよく立ち上がる。
「帰る!」
「シャワーはいいんですか?」
「いらない!」
ドスドスと足音を立てながら、玄関へと向かう。
その背中にニアが呼びかける。
「メロ。」
「何だよ?」
メロは振り返らない。
醜態を晒したことが恥ずかしくて、顔を合わせられないからだ。
ニアにもそれが解かっていた。
昔から莫迦に真っ直ぐで、後先を考えずに行動をしてしまうメロ。
太陽みたいにキラキラと笑いながら、好きだと全力でぶつかってきた。
再会してからまだ1年と経っていないのに、いつの間にか傍にいることが当たり前になっている。
そんな存在、今までいなかった。
「私も、貴方のことが好きです。」
「………へ?」
「また行方不明になったら心配なので、連絡先を教えてください。」
「おう……、え?じゃなくて、今お前何て…?」
玄関の扉を開こうとしていた手を止め、茫然とした顔でメロが振り返る。
そんなメロをしれっと無視して、ニアは自身の携帯テレフォンを手にしながら云った。
「連絡先を教えてください、と。」
「いやいや、その前!」
「また行方不明になったら心配なので。」
「その前だよ!」
解かっていてはぐらかしているのだが、必死過ぎるメロに、ニアは笑いそうになった。
「いいから、連絡先を云いなさい。
それからさっさと今回のことを上に報告して、さっさとこの件を解決してきなさい。」
「……ちぇっ。了解!」
手強いニアに背中を押され、メロは此処に来た時よりも自分が前向きになっていることに気付いていた。
状況は変わっていない。
救えるものはないだろうし、やってしまったことも変わらない。
それでも押し潰されそうな罪悪感に対し、立ち向かえるだけの元気を貰った気がした。
「今回の件、全部片付いたらまた遊びに来るから。――その時は、覚悟しとけよ?」
「覚悟?」
「”終わったらいい”んだろう?」
そういえば、ソファに押し倒された際にそんなことを云っていたな、とニアも思い出した。
返事をした覚えはなかったが、メロはそんなの構いはしないだろう。
メロが告げたナンバーを携帯に登録しながら、ニアは輝きを取り戻した男を一瞥し、空いた方の手をヒラヒラと振った。
「さっさといってきなさい。」
「おう。」
玄関の扉が閉まり、部屋に静寂が戻る。
新たに増えた携帯メモリーを眺めながら、ニアはやり残してきた明日の仕事内容を思い浮かべた。
弱ったメロが勢いでニアをいただこうとしちゃう話が書きたくて、考えてみたら、
ちょうど良い設定の2人があったのを思い出して、続きものにしちゃいました。
は、初めて両想いです、メロニア。
(ボツにしたけど、油断してたらニアがメロを襲いそうになっていたのは内緒です)
ウチのメロはヘタレ…じゃなかった、優し過ぎるので、ついついニアに食われそうになります。
今回メロニアにおさまってよかった。
純情なメロが大好きです!
...20160622
×おしまい
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