担任から軽く自己紹介をと云われ、奴はつまらなそうに外を眺めていた視線を教室に戻した。
「流河旱樹です。」
軽すぎる自己紹介を終えた奴は、つかつかと担任の制止の声を完全無視して僕の前まで来た。
正確には、僕の隣の席に、だ。
「どいてください、そこは私の席です。」
「待て、竜崎。…いや、流河?」
既に僕の隣に座っていた生徒を、しっしっと犬を追い払うように威嚇しながら、竜崎…流河は振り返った。
にたり、と口端を吊り上げて笑う。
「同じ制服を着られるなんて、夢みたいです。ペアルックみたいで、なんか恥ずかしいですね。」
流河は、似合っていない制服の裾をつまみあげ、自分と僕の姿を見比べて一人喜んでいる。
学校規定の制服で恥ずかしがるオカシな奴を、クラス中が好奇な目で見る。
その視線の先には、セットのように僕も含まれているのが気に入らなかったが、どうにか笑顔を保つことが出来た自分を自画自賛。
何故か良い子良い子と頭を撫で撫でしてくる流河の顔を見て、自分がカワイソウで泣きたくなった。
不眠症の眠り姫とお節介な王子様
入学したばかりは名前を覚えるために、席は出席番号順がお決まりである。
さも当然のことだとでもいうようにのたまった流河のワガママは、結局聞いてもらえず(僕が拒否した)、流河は僕の後ろの席に納まった。
今は昼休み。
どーしてか1時間目の授業の教科書を開いたままじっと前を向いている流河を、僕は振り返った。
ひらひらと確認のために手を顔の前で往復させてから、その手で握りこぶしを作り、流河の頭に振り下ろした。
「起きろっ!」
「………痛いですよ、月くん。」
器用に目を開けたまま寝ていた流河は、ゆっくりと瞬き、恨めしそうに僕を睨み上げた。
「1時間目からずっと寝てたのかよ、お前は!なんのために学校に来てるんだ?!」
「月くんと一緒に居るた」
云い終わる前に、もう一発拳骨を浴びせる。
制服の襟首を鷲掴み、引きずるようにして教室から流河を連れ出した。
誰もいないところ…と考え歩き続けて見つけたのは理科室。
そこでようやく僕は、溜めに溜め込んでいた息を、ゆっくりと吐き出した。
「積極的ですね、月くん。狭い密室に2人きりになりたいなら、そう云ってくださいよ。」
首吊らないでも喜んで2人きりになりますよ、と云いながら流河は引きずられて跡のできた首をさすった。
狭くもないし鍵掛けてないから密室でもないし大体積極的って何だ!というツッコミを飲み込んで、手近にあったイスに腰掛ける。
飲み込んだ理由としては、もっとツッコまねばならない事柄があったからだ。
「何だよ”流河旱樹”って?明らかに偽名ジャン!」
1時間目から奴が寝ていたためにずっと放出されずにいたツッコミを、一気にぶつけてやった。
しかし奴は何でもないかのようにしれっとした顔で云った。
「失礼ですね、月くん?全国の流河旱樹さんに謝ってください。」
「いねーよ!」
転校初日くらい、世話(相手)してやろうと思っていた朝の自分が莫迦みたいに思えた。
こっちは親切に校内案内とかクラスへの自己紹介とか、してやろうと考えてたのに。
ずっと寝こけやがって!
僕は自分の計画通りに事が進まないことが、一番嫌いなんだ!
不思議なことに、流河が寝続けても、他の生徒はそれをどうと思うことなく普通に過ごし、先生も何事もないかのように授業を進めた。
普通は、注意をしたり転校生に群がったりというイベントが起こるのではないのか?
僕の感覚がオカシイのかな…
「それは、私が神様だからです。」
「またそれか。」
竜崎は、ことあるごとに自分は神様なのだと云う。
僕はまったく信じていないけど。
(だって、何ソレ?笑っちゃう。今どき、小学生でも信じないよ)
「私と一緒に過ごせばお解かりになると思いますが、神である私を、皆無意識に特別扱いします。」
「はい?」
「月くんは特殊です。出会ったときから感じていましたが、おそらく”夜神”の血のせいでしょうね。」
「頼むから日本語を話してくれ!」
夜神の血は濃いとか不平等がないようにと心遣いは疲れるんですとか、宇宙語としか思えない言葉が次々と僕の頭を痛ませる。
最近気付いたが、流河は僕が『自称神説』を信じていようといまいと気にしていないようだ。
ただ、云いたいことは云う。
僕に意味が通じていなくとも、気にしない。
世はそれを、電波と呼ぶ。
「そうか、電波か。電波ね…。いや、そんな気はしてたんだ、うん。」
「電波…?」
「いや、ここは可愛く”不思議ちゃん”にしとく。」
「はあ、まあそれで月くんが納得するなら。」
流河は基本的に、なんというか、やる気・根気の類の気力がない。
ただ流されるがまま、無気力人間だ。
僕はそれが心配であった。
常々引き篭もっている流河は、果たして良好な人間関係が築けるのか…と。
赤の他人なら気にしないが、流河はお隣さん。
なおかつ幼馴染といってもいいような古い付き合いなのだ。
「お前、そんなんじゃ学校生活うまくやっていけないぞ?」
「大丈夫ですよ。」
「どこからその自信はでてくるんだよ…」
「それより、お腹空いたでしょ?食堂に行ってお昼にしましょう。」
「……そうだな。」
のんきな流河に呆れながらも、云われて急激に空腹を感じたので素直に頷いた。
今日のランチメニュー(数量限定)、確か春巻きだったなぁ。
「まだ残ってるかな、ランチ。」
「うーん、……ありますよ。」
「お前は知らないだろうけど、ランチは安くて人気なんだ。こんな時間じゃ、きっと残ってないよ。」
「絶対大丈夫です。」
自信たっぷりに笑む流河。
何でか解からないけど、その言葉を無条件で信じている自分に気付いて、少し動揺したのは流河には内緒だ。
――食堂では、奇妙に2人分のランチが、僕たちを待っていた。
『お隣さんは神様』シリーズ、第三弾。
ちょっとL月になってきた。きた、か?
竜崎が望めば、何だって叶っちゃうんです。
だから常々、無気力状態。
このタイトルに一目惚れして、このお題を借りました。(裏話)
Lと月のために作られたとしか思えないよね!
...20060412
×おしまい
『お隣さんは神様』シリーズ↓(書いた順)